そうだったんですね。山口さんといえばスタディサプリですから意外です。

山口:スタディサプリ自体はずっとトップで関わっているのですが、それ以外も兼務、兼務、兼務で(笑)。その経験から、自分が社長になってからの戦略やシナリオは、各タイミングごとに自分で描いていました。

 リクルートの面白いところって、誰かをリーダーに据える時に、新規事業の開発だけではなくて、30年、40年続く既存事業で、どちらかというと競合の侵食を防がなくてはならない分野を任せることもあるんです。だから、今はスタディサプリをやりながらも、ゼクシィやカーセンサーのように歴史があるサービスでどのようにナンバーワンを維持していくか。攻めだけではなくて、守りの領域についても非常に重要だと考えています。

先ほど、一見バラバラに見えると説明されたリクルートマーケティングパートナーズとは、実際にはどのような会社なのでしょうか。

山口:ビジョンドリブンで、分かりやすい会社でなくてはならないということですね。端的にいうと、人生の節目節目、仕事と家の購入を除く、結婚や受験といったライフイベントのタイミングに合わせて、支援をしていく会社だと考えています。例えば、女子大生の方が、「ゼクシィ恋結び」で彼氏を見つけ、「ゼクシィ」で結婚式場を見つけて、家族ができたら出産育児の「ゼクシィBaby」。その子供は「スタディサプリ」で学び……、という流れですね。

 家族のカーライフはどうするの、という局面でも我々のサービスが存在します。こうして、人生の節目節目の意思決定や行動に関して、情報提供やコンテンツ提供をしながら伴走していくということだと思います。我々の会社は社員の平均年齢も若くて、20代、30代で全体の9割を占めています。自分自身がサービスのユーザーでもあって、プロバイダーでもある。一体になってコミットしていこうという形で、社員を巻き込んでいるつもりです。

山口さんから見て、リクルート流の新規事業開発とはどのようなものですか。

山口:よく「戦略は組織に従う」「組織は戦略に従う」といった言葉がありますが、リクルートは「戦略も組織も人に従う」という会社なんじゃないかと思います。それは新規事業でも、M&A(合併・買収)でも既存事業の拡大でもいいのですが、イノベーションを起こして何かを新しく作り、成長させた人へのクレジット(信頼)に全てをベットすることではないかと。それが、リクルートが成長を続けている源泉であると考えています。

 本当に圧倒的に個を大事にする会社だから、その個の集団の中でも圧倒的に結果を出して未来志向な人に懸けていく会社。だから、そこに戦略や組織がついてきて、こいつが考えたことをやるために、お金も優秀な人材も集めちゃおう、となる。そういうのがリクルートという会社なんだと思いますね。

失敗を謙虚に内省し続ける

歴史を紐解けば、過去には大きな失敗も数々あったわけですよね。

山口:そうですね。そこで大事なことは、やはり百発百中はないのだけど、失敗を謙虚に内省し続けてきたのではないかと思います。ひとつの巨大な成功の裏には数多くの失敗があって、その失敗をケーススタディーにして経営陣やミドルマネージャーに学ばせてきたというか。それは経営として、すごく秀逸だなと感じます。

山口さんは中途入社から今の立場になられたわけですが、リクルートの「生え抜き文化」が強いという外からのイメージと、実際についてはどう思われますか。

山口:僕が入社した12年前でしたら、やはりリクルートというのはプロパーで、営業で大スターになったような人が営業のトップに就いて、その後、経営陣になっていったという面はあったでしょうね。ただ、峰岸さんの体制になってここ5~6年の状況でいうと、経営陣やミドルマネジメントのダイバーシティー化は進んでいると思います。

 リクルートは2000年ごろから、出版業からインターネットメディアへの転換を推進した。それは単にメディアを変えただけではなくて、内製のエンジニアもテクノロジーにこだわろうという意識の中で、どんどん外から人を入れるということだったんですね。それが続いた結果、今はもう完全に、プロパーだけの会社ではないと捉えています。

 リクルートのプロパーが持っているリクルートの強さやカルチャーは確かにあるんです。一方で、30歳前後で、外資系の戦略コンサルとか、スタートアップのエンジニアでバリバリやっている人たちが入ってくる。そのダイバーシティーが化学反応を起こして、今のリクルートを形作っているのではないでしょうか。

創業者の江副浩正氏については、どんなイメージを持たれていますか。

山口:江副さんには残念ながら、一度もお会いしたことはありません。ですが、江副さんの「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という言葉、そして番頭だった大沢武志さんの作られた「心理学的経営」。内発的動機を高めて維持させるマネジメントを作る上で、この2つは非常に大きかったと思います。

 僕自身も、自ら機会を創り出し、機会によって自らを変え、社会を変えてきた人にバトンタッチをされたと思うし、次の人たちにそうしたバトンをつなぎたいという気持ちが強い。リスクを問わずチャレンジする個人が、互いに期待し合う場所がある。起業家精神が企業文化として流れているからこそではないでしょうか。