当初想定を捨て有料モデルに転換したワケ

ビジネスモデルとしても、非常にユニークですよね。

山口:実は元々、受験サプリの原型というのは現在の有料モデルではありませんでした。無料の受験コンテンツを高校生に提供すれば、それを利用する子供達の会員データベースができる。それに対して例えば早稲田大学が、東京大学を第一志望にしている高校生に広告を送る。こうした、リクルートでは一般的なマッチングと広告のモデルを想定していました。

 ただ、色々考えていくうちに、単に無料の模擬試験や過去問題を提供して広告で少し収益を上げたとしても、それで世の中は変えていけないな、と思いついたんです。子供達が自己実現するための大学の合格に向けて、一番近道になる勉強をする。それに必要なのはやはり、予備校での授業や通信教育などのしっかりしたコンテンツではないかと。

 でも、一方でこうした予備校などは、非常に良いものですが利用するためにかなりお金がかかります。それならば、我々のサービスでは、最低限のお金はいただきつつ、質の高い授業を提供しようと。幸い、今ではスマートフォンをはじめスマートデバイスが普及している。それをターゲットにすれば、広がっていくのではないかという読みがありました。

 こうして、最低限の料金を設定して、日々の勉強に必要な優良なコンテンツを提供していくというモデルができて、サービス開始後からは完全にそちらをメーンにしているというのがここまでの流れですね。社会へのインパクト、ビジネスインパクトという観点では、それは正しかったと思います。

スタディサプリは低価格を武器に、40万人を超える有料会員を獲得した

月額980円というのは、サービスが急速に普及する上で大きな原動力になったかと思います。加えて、ネットサービスである点も重要だったということですね。

山口:ここも様々検討しましたが、一番最初にテスト的にスタートした際は、月額5000円とかだったんですよね。大学受験予備校であれば、月額3万円とか、5万円とかかかるところも珍しくない。それであれば、5000円という金額にニーズはあるのではないかと。ただ、これには全く反応がなかったんです。

 そこで改めて考えたことが、やはりこれは、あくまでインターネットサービスの1つなんだということですね。動画視聴のサービスであれば、月額5000円なんて設定はまずありえない。消費者の立場から、ネットサービスとして許容できる金額設定はどこか。それが980円という、適度でありつつ教育格差の解消も可能な金額設定だろうと考えました。

 この場合、やはり何十万人という会員規模にならなければ、損益分岐点を超えていくことはできない。長期的な視点で投資もオペレーションも大変ですが、最初にそれを進めれば競合は真似できない。高単価で限られた世帯を相手にした「縦」のサービスではなく、「横」に広がった事業設計でなければならない。こうした分析はものすごくやりました。

不採算事業の清算も経験

スタディサプリの成功から、今や山口さんは主要事業会社のトップです。経営者という立場では、どのようなことを大事にしているのですか。

山口:リクルートマーケティングパートナーズという会社は、皆さんがご存知のサービスでいうと、結婚に関わる「ゼクシィ」、中古車の「カーセンサー」、教育の「スタディサプリ」などがあるんですね。一見バラバラなように見えますし、過去には事業の紐付けが難しいサービスも存在していました。

 そうした状況で、この会社は何の会社なのかという位置付けが、リクルートの他のグループ会社に比べ難しかったんです。実は私の役割として、ここ数年はスタディサプリの運用と並行して、前任の社長と二人三脚で会社のあり方をもっと分かりやすくしようと動いてきたという経緯があります。

 例えば、ゼクシィの責任者もやりましたし、どちらかというと出版系が強かった事業についてネット化を一気に進めるため、ネットマーケティングやシステム開発の部門を立ち上げるといったことも手がけました。一方で、ノンコア事業、不採算事業の売却や清算といったことの責任者も務めました。スタディサプリが目立っちゃうんですけど、実は色々やっていたんですよ。