なぜそうなったのか。コンセプト委員会のメンバーは今度は宿泊客が到着してからのタイムスケジュールを頭に浮かべながら議論を進めた。17~18時にホテルに到着した場合、18時すぎからディナーでこのレストランを利用すると、食べ終わるのは20~21時になる。宿泊客がそれから街に出かけたとしても、閉店している店がたくさんある。これではせっかく旭川に来たのに、街を楽しめないのではないかーー。自然な流れのなかで「都市を観光するホテルにとって、これはマイナスではないか」という声が出てきた。

 もう1つ発想の軸になったのがホテルのロケーションだ。旭川駅などからやや離れているものの、周辺には様々な個性的な店舗がある。星野は「都市を観光するという視点からすると、旭川のロケーションは顧客に選ばれる理由になる」と捉えた。実際、星野は旭川に来たとき、カウンターに3席ほどしかない、地元の常連ばかりの店にも顔を出し、街の魅力を体感していた。

 「では、どんな手を打つべきか」。それが旭川のスタッフにとって次のコンセプト委員会までの「宿題」になった。

 時間と場所の両面から考えていくうちに、スタッフの議論は「変な言い方かもしれないが、街の店とお客さんを取り合うのでなく、むしろもっと“仲間”になった方がいいのではないか」「外の名物店をはしごするコースをつくったらどうか」といった声が次々に出た。これまでにない発想の連続に、ベテランの小野寺はなんだか楽しくなってきた。街を楽しむホテルになるために、スタッフは自由に発言し続けた。

提案に対し、「それで大丈夫?」

 次のコンセプト委員会の当日。メンバーの1人がプレゼンテーションで星野を前に「せっかくユニークな店がたくさん近くにあるのだから、宿泊のお客様はホテルで食事するのでなく街に出て食事をして滞在を楽しんでもらったらどうか」と提案した。ユニークな戦略を次々に打ち出してきた星野にとっても予想外のアイデアだったのだろう。第一声は「それで大丈夫?」。しかし、メンバーの説明を聞くうちに、やがて「それは面白い考え方だ」と理解を示した。

 宿泊客が外で食べる場合、ホテルのレストランはディナーを提供しないことになる。総支配人の日生下は星野とメンバーの様子に少しとまどった。「ディナーなしでレストランとして成り立つのか。ホテルにとってそれが本当にいいことなのか」。それでもスタッフが旭川を観光する宿泊客の目線で何が一番いいのかを考えていることは、日生下に伝わってきた。星野はスタッフの声に押されるように「では、宿泊客のディナーは止め、『外に出てもらう』ことにしよう」と宣言した。

 それでも3カ所のレストランのうち、上層階にある中華と和食は地元客をそれなりにつかんでいたため営業は継続できる。これに対し、1階のレストランはホテルの顔というべき位置にあるものの、地元客のディナーでの利用は少なかった。このため、宿泊客に夕食を外で食べてもらうならば、1階のレストランはディナーの提供自体が不要になる。それならば1階のレストランは夜、営業しなくていいのかーー。この点でも議論は分かれた。

 1階はロビーを含めて都市観光をテーマに改装することが決まっていた。改めて都市観光をキーワードにすると進むべき方向が見えてきた。

 顧客に街歩きを楽しんでもらいながら、ホテルとしてのサービスが可能なのはどんなタイミングになるのか。もう一度タイムテーブルに注目し、浮上したのが街歩きの前後だ。1階のレストランはまず街に出る前に気軽に立ち寄ってもらい、ワインと生ハムを楽しんでもらう。街歩きから帰ってからは、デザートを楽しんでもらおう、と決まった。

 それ以外の時間はどうか。顧客目線でレストランの役割を考えると、おいしい朝食を提供する場という軸は都市のホテルとして重要な軸になる。ディナーをやめることも勘案した結果、1階のレストランは時間帯ごとのスタッフの配置を見直し、夜のスタッフを減らす代わりに朝のスタッフを大きく増やすことにした。またランチには地元の顧客をターゲットに集客を高める方針も決まった。

 一連の議論を通じて、「比較的収益力のある宿泊や宴会の魅力を高める」というレストランの役割が浮き彫りになった。地域のニーズが限られる宴会部門と比べると、外から人がやってくる宿泊部門は伸びしろが大きく、いっそうレストランとの連携が大切になる。部門ごとに収益を追うのではなく、各部門が連携して収益を高める「スクラムを組み直す」戦略がスタッフに浸透していった。

1階のレストランでは、ディナーをやめる代わりにデザートなどを充実させることを決定(写真:船戸俊一)

 レストランのあり方を見つめ直すなかでは同時に、街とホテルを一体ととらえて滞在を楽しんでもらう方向が固まった。それが「街中見つけ旅」という旭川のコンセプトとしてまとまり、さらに「寝るだけでは終わらせない、旅のテンションを上げる都市観光ホテル」というOMOブランド全体のコンセプトにつながった。