最初のコンセプト委員会では、フラットな組織に慣れていないため、社員はあまり発言しなかった。同席する上司の目を気にする人もいた。それでもグループごとに「競合について調べる」「市場を調べる」などの「宿題」が出され、次回までに調べて結果を発表することになった。最初はぎこちなかったが、これを繰り返すうちに社員は次第に慣れ、少しずつ話し始めるようになった。 

 多くの既存案件に携わった星野リゾートのスタッフによると、どの施設もまず口火を切るように話し始める人が1人、2人出てくることから議論が動き出す。星野は後に「やはり旭川でもそんな社員が出てくることから始まった」と振り返る。 

OMO7旭川の総支配人を務める日生下(写真:船戸俊一)

 小野寺にとって、多くの社員を前に発言するのは勇気が必要だった。それでも少しずつ意見を出したり、それぞれの出したプランに点数をつけ合ったりしていくうちに何とか慣れていった。

 フラットな組織は徹底していて、星野リゾートでは星野はいつも社員と本気で議論する。「『社員に意見を出していただき、私は思っていることを言わない』などというのではない。フラットな組織というのは、お互いに言いたいことを言える組織文化があるということ。だから私もどんどん言っているし、そう簡単に議論で負けると思っていない」と笑う。会議の場で社員が星野の意見に反論するのは日常的だ。

スクラムを組み直す

 旭川のコンセプト委員会にとって最初のテーマは、事業構造を見直すことだった。

 旭川には宿泊、飲食、宴会、婚礼の4部門がある。北海道以外からの来訪者も多い宿泊に対し、ほかの部門は周辺のエリアから集客していた。しかし、それぞれがバラバラに動き、少しずつ近隣の競合にシェアを奪われる状況だった。例えば宿泊はJR旭川駅に近い宿泊専業のホテルに顧客を奪われ、ブライダルは専門業者に一部を奪われ、宴会も近隣の専門業者にシェアを奪われていた。「典型的な地方のグランドホテル」のため多様な部門があるものの、シナジー効果はなくそれぞれが小さな競合と戦い、少しずつ負けるようになっていた。黒字を維持してはいたが、ビジネスモデルは耐用年数を迎えていた。

 星野は「状況を変えるにはそれまでの部門のあり方や部門間の関係を見直し、一体となって相乗効果を出して競合に向かうべきだ」と考えた。どうしたらトータルな力で滞在者に価値を提供できるか。このとき星野が掲げたキーワードが「スクラムを組み直す」だ。

 詳細にみたところ、収益性が高く今後の可能性が大きいのは宿泊と宴会で、これまで以上に力を注ぐことが決まった。一方、気になったのはレストランだ。観光客を意識し、これまでも北海道ならではの海鮮料理や炉端焼きなどを提供していた。しかし、専門店に勝つのは難しく、いろいろな工夫をしてもうまくいかなかった。このため、地元の顧客向けのメニューも同時に提供し、ちぐはぐな状態だった。

 都市観光にかじを切る以上、改めて観光目的の宿泊者に対して何を提供したらよいかを見つめ直さなければならない。都市観光ホテルにおけるレストランの機能をどう再定義するか。専門店に勝てない以上、北海道らしいメニュー自体、「何を食べていただきたいか」というプロダクトアウトの発想になっていた可能性がある。これまでの経験からスタッフも「それならばずっとやっていた」という気持ちがあった。

 進むべき方向の手がかりをつかむうえで重要なのがデータだ。このときポイントになったのが宿泊者との関係。旭川ではこれまで宿泊者のうち、施設内に3カ所あるレストランを利用する人は合わせても1割にとどまっていた。これをどう考えるべきか。北海道らしいメニューの提供が正しかったのか、そうではなかったのか。もっと違う理由があるのか。星野は「自分が旅をしたときにどういう行動をしたいかを考えよう。本当に食べたいものは何か。そこから考えていこう」と呼びかけた。

 具体的に考えるために、委員会のメンバーにアンケートをとることになった。その結果は衝撃的だった。9割以上が「宿泊施設で食べないで地元の有名店、名物店に行く」という回答になった。星野はその結果をみてこう言った。「これじゃあ、勝てるはずがない」

改装により、ツインルームを増やした(写真:船戸俊一)