琵琶湖を臨む好立地にある(写真:大亀京助)
琵琶湖を臨む好立地にある(写真:大亀京助)

あえて京都を犠牲にする

 市場構造を改めて見つめ直すと、京都のマーケットに頼ろうとすればするほど、ロテルド比叡の所在地は街の中心部から離れていることが不利な条件になっていた。それでも従来は京都の集客力を無視できず、何とか京都に寄り添おうと不利な条件のまま戦おうとしていたが、京都ではあくまで脇役止まりだった。

 一方、滋賀に目を向けたら、京都の中心部からの距離を気にする必要は一切なくなる。むしろ、琵琶湖を見下ろすロケーションが強みになり、主役になれる可能性がある。また目を凝らしてみれば、滋賀には鮒ずしに象徴されるようにさまざまな魅力がある。思い切って滋賀でいくのも「あり」なのではないか――。鮒ずしをきっかけに議論は多いに盛り上がり、さまざまな話が進んだ。「滋賀にそれだけの個性があるのか」と心配する声も出たが、やがて「これまで通りでうまくいかない以上、滋賀でいこう」という方向が鮮明になった。星野はスッキリした表情で言った。

「滋賀の魅力を集めよう。そのためには京都を捨てよう。トレードオフだ」

<span class="fontBold">「競争戦略論Ⅰ」<br> マイケル・ポーター著<br></span>星野がトレードオフについて学んだ論文を掲載。コモディティー化を抜け出すために熟読し、実践する
「競争戦略論Ⅰ」
マイケル・ポーター著
星野がトレードオフについて学んだ論文を掲載。コモディティー化を抜け出すために熟読し、実践する

 トレードオフとは、星野の理解によると「一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ない関係」のことを示す。経営学の教科書を読み経営の参考にしてきた星野は、競争戦略の大家であるマイケル・ポーターの論文でこの戦略を知り、いろいろな場面で取り入れてきた。

 そもそもトレードオフに注目するようになったのは、コモディティー化を抜け出すためだった。

 星野によると、例えば一昔前ならばホテルのカレーライスは圧倒的においしかったが、現在はおいしいカレーライスを提供する店が増えた。これはおいしいカレーがコモディティー化したためで、カレーがおいしいというだけでマーケットから抜け出すことは難しくなってきた、とみる。コモディティー化はあらゆる分野で進んでいる。だからこそ、差異化するには相手がまねをしにくい方向に進む必要があり、その手段が犠牲を伴うトレードオフだ、と星野はとらえている。

 ロテルド比叡の場合、トレードオフによって滋賀に徹しようとしたら、その代わり京都からの集客を犠牲にしなければならない。不利なロケーションといえどもそれまで集客に貢献してきた京都の観光客に背を向けるのは勇気のある選択だが、中途半端に京都を残すのでなく滋賀にしっかり集中するからこそ、差異化できるようになる、ととらえた。

 大きな方向は見えてきたが、議論のきっかけとなった鮒ずしは、それまでロテルド比叡では提供していなかった。施設内にはレストランがフランス料理を提供する1カ所しかない。

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