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総支配人はバーテンダー出身

 星のやバリの総支配人、廣瀬真人は18年に赴任した。

 廣瀬はもともとは弁護士を目指していた。大学法学部の卒業後も司法試験を突破するために勉強を続けていた。そのために飲食業で働くうち、こちらが本業になり、都内でバーテンダーになった。

 一時は地元の茨城に戻り、バーの立ち上げを手伝ったりもしたが、都内で大手外資系ホテルが開業。廣瀬はそのバーで働き始めた。これが宿泊業に入るきっかけになったものの、次第に組織のカベを感じるようになり、転職した先が星野リゾートだった。

星のやバリの総支配人を務める廣瀬は沖縄、北海道での勤務を経て赴任

 最初の赴任地は当時、星野リゾートが沖縄の小浜島で運営していたホテルだった。宿泊業のなかで料飲部門の経験しかなかった廣瀬はマルチタスクで働きながらさまざまなスキルを身につけた。「マルチタスクは、スキルが積み上がってくるとどの業務も自分で判断できるようになる強みがある」と実感を持って話す。

 この施設の総支配人も務めるようになったが、オーナー事情により、星野リゾートはこの施設の運営を終了。広瀬は北海道のトマムに転勤となり、今度はマルチタスクのサービスチームをまとめるユニットディレクターになった。

 沖縄、北海道に次ぐ3カ所目が星のやバリだった。「外資系ホテルのバーで働いたことがあるので英語ができると思われたのかもしれない」と廣瀬は話す。赴任した当初は結婚式や葬式が「急に決まったので休みたい」というスタッフがときどきいるなど、文化的な違いに戸惑いもあった。それでも、マルチタスクやフラットな組織文化の導入にあたって差はない、とみている。

 社員が考える強みを生かすため、星野リゾートはそれぞれの施設でスタッフがどんな魅力を発信するかを話し合う「魅力会議」を施設ごとに開き、プランを決めていく。廣瀬は「現場発想のため、さまざまな面で現地のスタッフがやりやすい面がある」と話す。前職では会社全体の広報部門が商品開発をしたうえで現場に伝えられるやり方だった。このため現場とは意識のずれがあり、うまくかない面があると感じていた。

 魅力開発にはプロジェクトマネジメントのスキルが必要になる。国内の新卒のスタッフは最初、先輩社員といっしょに取り組みながら手法を身につける。バリでも同じだが、国内と違い、魅力会議に向けてゼロベースから考えてもらうのはまだ難しい面がある。それでも「こういうことをやりたい」と投げかけて、アイデアを出してもらうことから取り組んできた。

 例えば、アクティビティの「バリ舞踊美人滞在」は、実際のバリ舞踊体験にスパ・トリートメントなどを取り入れたプログラムで、教えるのは星のやバリで働くスタッフだ。もともと地域の子どもたちに教えており、その経験を生かしている。細部を検討していくなかでは、現地のスタッフから「こういうユニフォームを着たらどうか」「少し難しいからこうして踊れるようにしよう」といったアイデアがどんどん出ており、プログラムに取り入れた。廣瀬は「日本からの社員が考えても限界がある。個性的でユニークな文化に対して、理解の深い地元のスタッフの発想こそが魅力になる」と期待する。

スタッフの意見を取り入れながら「バリ舞踊美人滞在」のアクティビティが完成
バリ舞踊美人滞在プログラムを担当するスタッフは普段、経理を中心に働いている

 スタッフは順調に成長しているが、うまくいかないこともある。