“長生きするリスク”が市場にも影響

 前回にもお話しさせていただきましたが、やはり個々の家庭や生活の充実があってこそ、仕事にも意欲的に取り組めるものだと思っています。家庭や生活がおろそかになると、結果として仕事にも影響しますし、逆に家庭や生活を顧みずに仕事ばかりに専念すると、家族に負担をかけたり、心身の健康を害してしまうこともあるでしょう。ワークとライフ、そのバランスが取れることが大切ですし、会社としても、それを後押ししていけたらと考えています。

 そうした中で、育児関連の支援は充実してきましたが、介護関連はまだ模索しているところです。というのも、育児の苦労は職場でもオープンに話せる人が多い一方で、介護についてはなかなか話せない傾向があるようで、実情を把握しづらいのです。介護の問題は今後ますます大きくなってくるはずですし、どのように対応していくかが今後の重要な課題だと思っています。

 介護の問題は、自分が支える立場になるだけでなく、支えられる立場になる可能性もあります。昨今、“長生きをするリスク”という言葉を耳にすることがあると思います。これまでは、子どもや孫にいかにうまく自分の財産や資産を譲り渡すかということが、基本的な概念としてありました。ところが、自分が今後長生きをして介護が必要になってしまった場合に、経済的に子どもや孫に迷惑をかけたくない。充実した老後の生活を送るためには、健康であることはもちろんのこと、老後に備えた資産形成や運用が大変重要な課題となってきているんですね。

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第2の人生をいかに健康で充実して過ごせるか

 今、「人生100年時代」「定年後の生き方」などをテーマにした本がよく読まれていますが、今年で60歳になった私にとっても、それは大きなテーマになっています。かつては60歳、65歳で定年を迎えると、第2の人生は20年程度でした。でも今は、さらに20年延びる可能性があるとなると、人生設計も大きく変わってきますよね。第2の人生の40年を、“長生きするリスク”を負わずに、いかに健康で充実して過ごせるか。それを、定年を迎えてから考えるのでは遅い。今から準備をしておかなければと、かなり真剣に考えるようになっています。

 定年後はワークとライフのワークがなくなるわけですから、働いている今のうちから、ソーシャルとの関わりを持つことも大切だと思っています。それは、地域社会との関わりでも、ボランティアでも、趣味でもいい。

 私は例えば、学生時代はギターを弾いていて、社会人になってからはチェロを買って習っていたことがありました。ずいぶん長い間、そのままになっていたのですが、最近になって妻がチェロを弾き始めたので、私もまた何か楽器を始めたいと思っているところです。妻と一緒にチェロを弾くのもいいですし、今まで演奏したことのない管楽器にもチャレンジしてみたい。60歳になってからサックスを始めた知人がいるのですが、肺活量が上がって健康にもいいと話していました。そんなふうに考えたり、楽器店を訪れてみたりする時間もまた楽しいので、これからあれこれゆっくりと考えていきたい思っています。


(まとめ:田村知子=フリーランスエディター/インタビュー写真:村田わかな)

宮原幸一郎(みやはら こういちろう)さん
東京証券取引所 社長
宮原幸一郎(みやはら こういちろう)さん 1957年生まれ、東京都出身。1979年慶応義塾大学法学部卒業後、電源開発(現Jパワー)を経て、1988年東京証券取引所に入所。2009年東京証券取引所グループ常務執行役、2013年日本取引所グループ常務執行役および東京証券取引所常務執行役員、2014年日本取引所グループ専務執行役、2015年6月から現職。