一流人が実践する健康マネジメント術を紹介する本コラム。今月はアンダーアーマーとの提携をはじめ、様々なスポーツ産業分野で成長を遂げているドームのCEOである安田秀一さんにお話を伺っている。その最終回になる第3回は、健康管理にも大きく関わる、安田社長が考える“ワーク・ライフ・インテグレーション”の在り方と、その実現を目指したドーム新社屋のオフィス環境について聞いた。
仕事をしながら健康や体調を管理することは、結局はワーク・ライフ・バランスではなく、仕事と生活を統合し双方の充実を目指す“ワーク・ライフ・インテグレーション”だと考えています。日本人は仕事を好きでやっている人が少ないですよね。ですから、ワーク・ライフ・バランスといって、仕事と私生活のバランスをとらなくてはいけないという考え方になるんです。仕事を嫌だと思いながらやっているからストレスもたまるし、体調も悪くなってしまう。僕はその働き方はちょっと違うんじゃないかなと思います。
自分がやっている仕事が好きで充実していれば、個人生活だって充実します。高い次元で双方を充実させられれば、会社の生産性だって上がるし、その人の生活の質も高まって幸福感や達成感を得ることができるんだと思っています。日本は、もっと働き方自体を変えていかなければいけないですよね。
新社屋で社員もトレーニングと健康食を満喫
ドーム社内にはトレーニング施設である「ドームアスリートハウス(DAH)」や、トレーニング後に適切なサプリメントや高たんぱく低脂質の食事がとれる「DNSパワーカフェ」があります。トレーニング施設は契約選手はもちろん、社員であれば好きな時間に使うことができます。DNSパワーカフェは、選手や社員以外の方でも会社を訪れていただければ、誰でも利用できます。
こういった施設を設けたのも、僕らの会社にスポーツが好きな人が集まってきて仕事をしているからです。スポーツ好きが集まって、好きなスポーツに関わる仕事をしている。それが健全な姿だと思いませんか(笑)。
社員が集ってコミュニケーションをとるために、社内にはたくさんのリラクゼーションエリアがあります。どこも大胆に面積を割き、飲み食いしたり、くつろいだりしながら、仕事ができるような環境を整えています。もとより「好きなことを仕事にする」という働き方を目指してきたこともあって、みんなでプロ野球やJリーグについてあれこれ話すことは、仕事なのか趣味なのか区別できないというのが実際のところです。ドームが約20年前の設立以来ずっと20%前後の成長率を続けているのは、こうした働き方を実践しているからと考えています。
それにうちの会社は、特に就業時間を決めていません。日本の多くの企業は、就業時間がほとんど同じです。ですから通勤時間帯も一緒になって、満員電車に揺られて、仕事の前に疲れやストレスがたまる。それでは心身ともに良いことはないですし、仕事を好きになれないでしょう。僕自身が丸の内にある、典型的な日本型の働き方をする商社からの落ちこぼれだから、余計にそんなことを思うのかもしれません(笑)。
通勤でストレスをためず好きなときに働く
僕自身の理想の働き方というのは、自分の好きな時に働くというものです。例えば、マイクロソフトの「Office365」というサービスがありますよね。日本式に考えると「365日、毎日働く」とブラックな印象になってしまいますが、私は「365日、好きな時間に好きな場所で、良いコンディションで働く」という意味にとらえています。クラウド上で連携ができている限り、誰がどこにいても仕事は進行するんです。うちの会社では、その考えを基に業務用システムを構築して、誰もが好きな場所で、好きな時間に仕事に取り組めるようにしています。ただ、ミーティングなどは、時間を守ってきちんとやります。やはり顔を合わせて意見を出し合うというのも大切です。
僕の場合は、朝起きたらベッドの中でスマートフォンとタブレットで各プロジェクトやタスクの進行を確認します。それから朝食をとって、7~8時の間に出社というスケジュールです。道は空いているし、通勤でストレスをためることもない。仕事でストレスに感じることがあるのは仕方ないですが、ほかの部分であえて精神的に不健康になることはしたくないんです。
中には自転車で通っている社員もいて、自転車通勤にも手当を出しています。それが健康管理や体づくりにつながって、会社の生産性や成長率が向上するのに役立ってくれれば、これも大した投資ではありません。
仕事はもちろんですが、自分の時間にスポーツやトレーニング、それに料理なんかも楽しまなくてはいけないと思っています。この「楽しい」ということの定義が大切で、大部分の日本人の場合は「消費(ストレス解消)の楽しみ」になっているんだと思います。仕事では嫌な思いをして怖い顔をしているから、休日のゴルフで発散するというのは何も生産していないんです。
本来、楽しみというのは何かを生産することではないでしょうか。トレーニングであれば筋肉を大きくできますし、料理は体を作るために必要な栄養を取り入れられます。こうした楽しみであれば、自分の体や健康を「生産」しているじゃないですか。
仕事や運動をポジティブ、前向きに考えて、クリエイティブに日常生活を送っていくということが、体を資本として働くための僕の最大の健康管理術ですね。
(まとめ:松尾直俊=フィットネスライター/インタビュー写真:村田わかな)
安田秀一(やすだ しゅういち)さん
ドーム 会長、CEO

1969年東京都生まれ。法政大学文学部卒業。大学在学中はアメリカンフットボール選手として活躍。3年時のハワイ大学との合同合宿で、日本とのスポーツ環境の違いに驚く。卒業後、三菱商事に入社するも、国内のスポーツ環境の改善を目指して1996年にドームを設立。当時1本500円したアスリートの安全環境面を整えるテーピング用テープを1本180円で販売することに成功。1998年、米NFL(National Football League)の下部組織であるNFLヨーロッパのプロコーチとして派遣され、アンダーアーマーと出会う。そのスポーツウェアの性能の高さに驚き、パートナーシップを締結。そのほか、スポーツサプリメント販売や、プロアスリートのフィジカルサポートなども手がける。
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