ニューヨーク、マンハッタン島からフェリーに乗り、ハドソン川河口に設置された射点に向かうビジネスパーソンたち。埠頭には空港を思わせる行き先パネルがあって、「上海行き。7時発。on time」と表示されていた。ただし、巨大なロケットが発射台の上に佇んでいる。

 つまり、今のジェット旅客機に代わる、ロケット推進旅客機としてBFRを使おうというのである。いわば、大陸間弾道旅客機。

 乗客が搭乗し、大気圏外に出て決められた弾道軌道(わざわざ周回軌道に乗る必要はない)に達すると、1段目は切り離されて地上に戻っていく。そして、2段目の宇宙船部分はそのまま上海を目指し、39分後には上海沖の施設に直立した形で着陸する。この方法なら、地球上のほとんどの場所に30分以内、すべての場所に1時間以内、価格としても今のエコノミークラスほどで実現できるという。

 実は、この日のマスク氏のプレゼンの中で、ニュースとして一番ウケたのはこれだ。

 火星計画はアップデートだったのに対して、地球内のロケット輸送については初めてのアイデアだったので、「スペースXがロケット旅客サービスに進出」みたいな見出しで大いに報じられた。

 しかし、現場の聴衆は、やはり火星計画についてのある程度具体的なロードマップと、方法を示した部分のほうに興味津々だった、と言わざるを得ない。

 プレゼンの時間は実質的に40分そこそこ。
 しかし、その倍くらいに感じるほどの情報密度だった。

(YouTunbeにアップされた講演は、こちら。SpaceXの火星計画の解説ページはこちらに。講演の動画も見ることができます)

講演内容をライブでまとめていくコーナーが会場の隅にあった。

 ぼくはこの日の夕方に空港に行って帰国の途につかねばならなかったのだが、まだ少しだけ時間があったので、会場から出ていく時に知っている顔に声をかけて感想を聞いた。

会場外。みんな「きれいな顔」になって出てきた。

IACで聞いた、僕が一番しびれた言葉

 「熱かったですね。本当に熱かった」
 と、頬を火照らせていたのは、某国の宇宙機関のエンジニア。

 「スペースXが大きなロケットにリソースを集中するなら、スモールランチャーに好都合」
 とにこにこしているのが海外のスタートアップの広告マネジャー。

 「わたし、もう10年くらいこの会議に出てきたけれど、去年も今年も、最後の最後でイーロン・マスクがすべてもっていった。国の宇宙機関よりも、ニュースペースの方が存在感があるとすら思う」
 と、ある大学の研究者。

 いずれにしても、みな頬を紅潮させている。スカッとする映画をみた後のようなすっきりした笑顔で、「なんかええもんみたなあ」という雰囲気で会場から出てきた。

 IACはもともと、ちょっとお祭りの要素もある宇宙会議だけれど、多幸感ここに極まれり。ぼくも、その雰囲気に素直に酔った。

 そんな中、一人、唇を引き結んだ人物をぼくは見出した。
 日本のインターステラテクノロジズのエンジニア、金井竜一朗さんだ。

 「学生の頃に聞いていれば、『イローン・マスクすげぇ』って純粋に感動していたと思うんです。今もすごいと思いますけど、でも、ぼくら、同業他社なんですよね。同じ舞台に立っていることを忘れちゃいけないと……」

 ぼくが5日間の宇宙酔いの日々で、一番、しびれたのは金井さんのこの言葉かもしれない。