さて、そんなBFRを開発して、既存のファルコン・シリーズや、ドラゴン宇宙船ではなく、こっちにリソースを集中するためには、鍵となる技術がいくつかある。会場の反応をちょくちょく書き加えつつ列挙する。

・炭素繊維でできた液体酸素タンク。軽量化のために必須の技術。2.3気圧の高圧で、通常の液体酸素よりもさらに低温にすることで密度を上げる。【爆発するところまで圧力を上げる実験の動画で、笑いがわき起こった】

・地球でも火星でも使う想定の(火星で推進剤を現地調達できる)、液体酸素・液体メタンのロケットエンジン・ラプターの開発。【ふむふむと玄人筋のうなずき】

・宇宙でのドッキング技術の確立(軌道上で推進剤を補給したい。ISSへの補給ミッションで次第に洗練されつつある)【さらに玄人な雰囲気のうなずき】

・ロケット1段目の回収技術(ファルコン9では、16回連続で成功)【拍手】
といったところ。
それぞれ、すでに着手済みの技術でもあって、IACの参加者にしてみれば、「なるほどあれはそういうことか」と納得がいくことばかりだっただろう。その中で、1段目ロケットの回収をルーティンとして行うようになったことは、喝采に値する偉業だと思われているようだった。
そして、これらの要素を統合してBFRのシステムが出来上がるのだという。
BFRは、地球から打ち上げた時、1段目に31個のラプターエンジンを搭載し、低軌道になら150トンを投入できる。この能力は月ロケット・サターンV型の、低軌道投入能力118トンとくらべても大きい。史上最大の打ち上げ能力を持ったロケットだと言ってよい。
そして、もっとも効率的なロケットでもある。1段目も、2段目(宇宙船部分)も繰り返し使うことが前提なのでコストは、過去最低のお安いロケットになる。【拍手】
このような超絶能力を持ったBFRをもってすれば、スペースXのすべての業務をこなしうるというのがマスク氏の主張だった。
You can do it! Elon!(君ならやれるよ、イーロン!)
具体的に言うと──
人工衛星・観測衛星の打ち上げは、どんとこいだ。たとえばハッブル宇宙望遠鏡を超えるような重量級でもかんたんに対応できるし、逆に軌道上からデブリを回収して持ち帰ることもできる。
今、ドラゴン宇宙船でこなしている国際宇宙ステーションISSへの補給ミッションは、BFRの二段目宇宙船がそのままこなせる。ISSにドッキングする宇宙船のイメージ図では、宇宙船のほうがあまりに巨大で笑いが湧く。マスク氏は「スペースシャトルだってやってたよね」と言う。
そして、月にだって行ける。
そのためには、いったんBFRで軌道上に宇宙船を上げたあとで周回軌道で待機させ、さらにもう一機、補給船をBFRで打ち上げて、軌道上で燃料を補給する。キモはこの軌道上でドッキングした上での燃料補給。これをすることで地球の軌道上から月との往還に足りる燃料を積んで月へと出発できる。月には着陸できるので、月面基地もできる。【拍手】

ここにきて、話はSFめいてくるわけだが、マスク氏本人も、聴衆も誰もSFだなどとは思っていない。BFRシステムを中核においた月往還にいくらかかるか、など、頭の中でそろばんを弾いている人ならば確実にたくさんいたはずだ。
話は佳境に入る。
つまり火星だ。
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