プライバシー侵害の懸念への対応

 ビッグデータの利用やデータ取引を進める上で、最も高いハードルが個人情報の保護だ。

 2017年5月に改正個人情報保護法が施行され、個人にまつわる情報でもデータを一定の度合いまで匿名化することで、第三者への譲渡が可能になった。個人情報かどうかあいまいだった、身体的特徴や識別符号(番号)などについて個人情報に該当する範囲が整理された。例えば、身体的特徴では、顔や指紋、DNAなど個人そのもののデータを個人情報であると明確に定義した。

 いち早く匿名加工情報の活用準備を進めたのがソフトバンクだ。すでに匿名加工情報の活用について公開ポリシーをサイトに掲載しており、「社内でのルールも確立した」という。具体的には、データの定義や加工方法、利用目的、管理方法、利用停止の手続きなどを公表。提供先については「(1)災害対策・地域振興などの公共目的、(2)提携事業者、(3)その他、契約者などに有益と判断する施策の企画・実施」としている。

 ソフトバンクのような通信会社が絡む携帯電話の位置情報の匿名化については、通信秘密の規制との関係があり、総務省が電気通信事業分野のガイドラインで考え方を定めている。ソフトバンクは「十分な匿名化をした際にどの程度の利活用が可能か。今後整理される情報とリピュテーションのリスクも考慮し、サービスを検討したい。一方、ディープラーニング(深層学習)などの最新技術を使った個人の再識別について報告がされており、細心の注意を払う必要があると認識している」と説明する。

 ただし法改正を受け、それに従うだけでは問題を解決できない。匿名化されたとはいえ、「自分のデータを使われる」ことに一般の人がどう反応するか、慎重な見極めが求められる。すでに次のようなことが起きているからだ。

札幌市内の地下道ではカメラの設置が見送られた
札幌市内の地下道ではカメラの設置が見送られた

 札幌市は2017年の夏に実施した実証実験でカメラの設置を断念した。当初の計画では、約500mある「チ・カ・ホ(地下歩行空間)」で、ビーコンやカメラなどで人流情報と属性情報(性別、年代など)を収集・活用するはずだった。3月までに実験で使うセンサーを決め、8~9月にセンサーを設置、デジタルサイネージとともにカメラを設置するとしていた。

 3月に地下歩行空間北二条の広場にサイネージは登場したが、カメラの設置は見送られた。理由は2月28日付北海道新聞が「札幌市『顔認証』実験へ」「個人情報 乱用の懸念」「公共空間 厳格な運用を」などと報じたこと。報道を受け、札幌市民からの問い合わせが市に殺到。3月22日の市議会で市はカメラの設置を中止すると答弁し、翌23日付北海道新聞は「『顔認証』実験中止」と報じた。

 札幌市都心まちづくり推進室の担当者は「夏の実証実験で顔認証をする計画はなかった。市民の方々に説明しても納得していただけなかったので、時間だけが過ぎていき、実証実験そのものができなくなる危険があった。そこでカメラの設置を断念して、別の方法としてタッチパネルを置き、そこからサイネージに情報を送るようにした」と語っている。

 企業や自治体において個人情報などパーソナルデータの活用が問題視されるケースは、「外部への説明が不十分」「消費者などのメリットが明確でない」「責任の所在が不明確」といった場合が少なくない。

 これらの課題を乗り越え、独自性のあるパーソナルデータの活用に成功した企業が優位に立つ。各社が一斉に取り組む中、活用しないと負ける時代が到来していると言える。

(協力 日経ビッグデータ前編集長 杉本昭彦、シリコンバレー支局長 中田敦)

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