データ提供者はデータを提供するたびに、レシピに従ってエブリセンスのポイントがもらえる。ポイントを一定以上貯めると現金に交換できる。サービス開始を記念して同社が募集した試験レシピでは、スマートフォンのセンサーデータを3カ月提供することで500円に相当するポイントを付与したという。

 同様の仕組みをスマートフォン以外のIoTデバイスに広げ、個人と企業、企業と企業がデータを売買できる仕組みを目指している。2017年10月にはデータの取引価格を正式に定めた。エブリセンスはデータを保有せず、あくまでもデータの提供者と利用者を仲介する役割に徹する。「取引の中立性を担保するため、価格決定にも関与しない」と北田正己CEO(最高経営責任者)は説明する。

 一方、日本データ取引所は2017年1月から、企業がデータ取引条件を掲載する「カタログサイト」を試験的に開設している。同社はマーケティング支援などを手がけるデジタルインテリジェンスとデータセクション、三菱商事出身の森田直一社長が設立した。

 カタログサイトはその名の通り、データのカタログを提示し、データを買ってくれる相手を見つけやすいようにするもの。その後の値付けや権利処理など交渉の円滑化にも配慮している。

 企業はカタログサイトに登録する際、企業間でデータを取引する際に必要となる約50項目を記入する。「経営企画、法務など企業の各部門や学術・研究団体などによって取引データについて確認したいことがそれぞれ異なる。情報をできる限り入力してもらうことで交渉をスムーズに運び、データの流通を加速させたい」と森田直一社長は話す。

 企業と企業の間のデータ取引においては、価格や条件の擦り合わせが必要で交渉がまとまるまで時間がかかっていた。そもそもどのような企業がどんなデータを持っているのか、なかなか分かりにくい。カタログはその解決を目指したものだ。

大手もデータ取引に参入

 大手企業の動きとしては、例えばKDDIが携帯電話事業者で先陣を切ってデータ販売サービスを始めた。「KDDI IoTクラウド ~データマーケット~」を2017年6月から提供している。

 販売するデータは、最新店舗情報、購買情報(True Data提供)、将来人口推計、訪日外国人の動向解析データ(ナイトレイ提供)など。データの価格は数十円単位からあるが、「活用のためにエリアや期間をまとめて購入することが多いと見て、一つの商談で数万円から数百万円を想定している」(KDDI)。

 データに加えて、分析ツールも用意する。GIS(地理情報システム)のESRIジャパンと共同で開発した商圏分析などが可能なツールを有償で提供する。

KDDIは「様々な産業にIoTサービスを提供してきたので、価値を出すにはどのデータをどのように分析をすればいいのか、といったノウハウを蓄積できている。データマーケットにそれを活かす」と説明する。

ビッグデータ収集に欠かせないセンサーの大手であるオムロンもデータ取引市場に関与している。ただし、オムロン自身が取引市場を運営するのではなく、センサーデータの提供側と利用側をマッチングし、両者の取引を制御できる同社の特許を取引市場事業者などに提供していきたい考えだ。

 「Senseek」(特許第5445722号)は、提供元と利用先の双方のデータに対し、メタデータを作成しておき、利用したい条件を記したメタデータと提供元のメタデータをマッチングさせて取引を成立させる仕組みである。
メタデータの具体例としては、「センサーの種類=カラー画像」「センシング対象領域の位置=京都駅前」「センシングデータの価格=○○円」「利用用途の種類=学術/商業目的ほか」、といった具合だ。

 この特許を使った「処理エンジンのプロトタイプは完成している」とオムロン技術・知財本部SDTM推進室長の竹林一氏(経営基幹職)は語る。オムロンは複数種類のデータを集めるセンサーも手がけており、「複数データを取得できるセンサーを複数企業がシェアリングすることも考えられる」(竹林氏)と話す。

 データ取引が盛り上がる機運を受け、2017年10月にデータ取引市場に関する民間団体が設立される。オムロン、エブリセンスジャパンの2社が呼びかけ、10社程度が発起人として参加する。

 

 この民間団体において、データ取引事業者やその運営に対する自主的なルール、事業者間でのデータ連係、データ提供・交換の促進などについて議論する。必要に応じて業界標準や国際的な標準化なども検討していく。

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