きっと今頃どこかのコンサルティング会社が「談合機能付き(!)の値付けAI」を開発していることだろう(写真=PIXTA)
きっと今頃どこかのコンサルティング会社が「談合機能付き(!)の値付けAI」を開発していることだろう(写真=PIXTA)

 それはさておき、もしも、同じ業界の全企業がこの新技術を導入したら、どうなるだろうか? 「自社の利益を最大化するような価格」は、「他社による競合商品の価格」に応じて変わってくる。単純な例としては、

  • ライバルが高価格のときは、自社もそこそこ高値にしておいた方が(売上数量はともかく)しっかり利益を確保できるが、
  • ライバルが低価格攻勢に出たときは、自社も安値で対抗しないと、何も売れなくなってしまう、

 といったケースが考えられる。

「協力プレイ」は実現するか?

 このような競争状況で、各社の値付けAIが「その場その場でベストを尽くす」と、どうなるか? これはもう、安値競争の泥沼になるしかない。詳細は省くが、ゲーム理論的に必ずそうなる。利益ゼロの日々が、ひたすら繰り返されていく。

 しかし、もしも各社の値付けAIがある程度まで先を読んだり、過去のデータを振り返ったりできるように設計されていたら? そのような場合には、お互いに高値を維持しようとする「協力プレイ」に転じる可能性も残されている。

 値付けAIを、目先の利益だけでなく未来の利益も重視するようにデザインしておけば、業界全体の利益を増やして分かち合う「談合」を実現できるかもしれない。これは「繰り返しゲーム」の理論がおしえる重要な教訓である。

 実際、グーグル・ディープマインド社やフェイスブック社の研究者による各種ゲームのシミュレーションによると、コンピュータ・プログラム同士でも、そうした協力プレイが実現している。

注:トロントの学会でも、「差別化財のベルトラン競争」について同様の結果が報告された(スライドはこちら)。ちなみに差別化財のベルトラン競争とは、「梅干しおにぎりとツナマヨネーズおにぎり」や、「トヨタ・プリウスとテスラ・モデル3」のような、同じカテゴリー内で異なる製品が、価格競争をしている状況を指す。

 独占禁止法によれば人間同士の談合は違法だが、値付けが自動化されている場合の規定はない。各国の公正取引委員会は、このような「アルゴリズム談合」の可能性について心配し始めている。今のところ実例はないようだが、きっと今頃どこかのコンサルティング会社が「談合機能付き(!)の値付けAI」を開発していることだろう。

 ……AIの「内側」の経済学なので、前回までと比べてかなりテクニカルな話になってしまった。詳細はともかく、ちまたでAIと呼ばれているものの中には、経済学でおなじみの理論や実証作法に根差したプログラムが詰まっている(こともある)。今回はそういう具体例を紹介した。

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