生のデータをぼんやり眺めていると、「値上げをすれば、来客が増える」ようにも見える。しかし、もしも北海道のリゾートホテルが(夏休み以外の平常時に)高い宿泊料を設定したならば、客足はさらに遠のいてしまうだろう。

 このように、「ありあわせのデータ」を分析する際には、実はけっこうクリアしなければならない計量経済学的な問題が多い。

ランダム比較実験(A/Bテスト)の評判もイマイチ

 そこで、もっと意味のあるデータを、新たに採取してみよう。

 理科の実験のような感じで、「色々な客に対して、ランダムに、色々な価格設定を試してみる」という経済学実験をしっかりすれば、問題点をクリアできそうだ。ランダムな比較実験は、商業的データ分析においても「A/Bテスト」という呼び名で親しまれている。

 ところがこの「実験」、当事者企業からの評判はイマイチである。信頼できるデータを積み上げるには時間がかかりすぎるし、「正しい推計値と最適な戦略」が見つかる頃には、季節もトレンドもすっかり変わってしまっているからだ。

ギャンブルに学ぶ、効率的な実験方法

 このようなビジネス上の課題に対して、「文脈付きバンディット」(原題は「Contextual Bandits」)と題された講演では、ある効率的なコンピュータ・アルゴリズムが紹介されている。

注:トロントでの学会講演動画はこちら

 これは、「実験」のムダ打ちが少なくなるよう、リアルタイムに実験内容を自動調整してくれるというものだ。発表者のスーザン・エイシー氏はスタンフォード大学の教授で、マイクロソフト社のエコノミストも務めており、もともとは産業組織論(企業と産業の経済学)の研究者である。

 まず、「本当の需要関数が分からない状況で、最適な価格設定を探し求める」というこの課題を、「バンディット問題」と呼ばれる確率論上の問題として、とらえ直すことから始めよう。

 バンディットというのはカジノにあるスロットマシンのことで、それが何台も並んでいるところを想像してほしい。もう少し日本風に言いかえると、パチンコ台が何台も並んでおり、それぞれに「くぎの角度」や「台の傾斜」が異なっているので、勝率もマチマチと予想される……そんな状況だ。

 さあ、あなたなら、どんな賭け方をするだろうか?

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