「数学的に正しい」価格設定とは?(写真=PIXTA)

 前回までは、AI(人工知能)の中身をブラックボックスとして「外側」から眺め、各種タスクの自動化がもたらすインパクトについて考えた。いわば「AIの外側の経済学」であった。それに対して今回と次回は、AIの中身や使い方に踏み込む。「AIの内側の経済学」とでも言うべきものだ。

 一口にAIといっても、それが何を指すのかは曖昧である。AIの要素となる技術はさまざまだし、そもそも人工知能どころか「知能」の定義すら明確ではない。しかし「そもそも論」はさておき、次のような実例を「AIによるオペレーション」と呼ぶことには(少なくとも現時点の社会通念上)さほど違和感がなさそうだ。

データ分析で価格設定を自動化

 たとえば、オンライン業態の小売企業や、スーパーマーケットなどを思い浮かべてもらいたい。「顧客の商品購入履歴をもとに、今後もっとも売り上げ増加につながりそうな価格設定をする」という一連のタスクを、コンピュータ上で自動化してみよう。

 これらのタスクをAIに丸投げできるとなれば、「過去の営業記録をもとに、現在および未来にむけたビジネス上の意思決定をする」という知的な営みが、一応は自動化し得ることになる。

 さて、「最適な価格設定」をするためには、「価格設定が売り上げに及ぼす効果」を知らないと始まらない。だから、そういう因果関係(この場合は、価格設定が「原因」で売り上げが「結果」にあたる)を調べよう。もう少し経済学チックに言いかえると、「需要関数」(値段と販売数の因果関係)というものを、データから推計する必要がある。

売上数量 = 価格設定(ほかに広告宣伝、商品特性、顧客特性、天気や季節など)の関数

 まともな需要関数であれば、「値段が下がると、販売量が増える」という右下がりの線になる。

ビッグデータ:大きいだけでは「粗大ゴミ」

 たくさんの商品購入履歴(ビッグデータの1つの典型)があれば、価格や広告のインパクトなどすぐに判明しそうなものだが、じつは一筋縄ではいかない。

 たとえば、「お客様は値段がコロコロ変わるのを嫌がりますし、店舗にある数万品目の商品価格をいちいち変えるのは大変です。ですからセール対象品などを除けば、どの商品も大体いつも同じ値段のままにしておきます」というお店は多い。それはそれで合理的な経営判断だ。

 しかしそうなると、需要関数のカタチを調べるのは不可能だ。統計分析のために必要なデータ成分(バラつき)が、ほぼゼロになってしまう。

 また、仮に価格変動が記録されていたとしても、それらが統計的に有用とは限らない。過去のデータには、(過去におこなった)市場予測や営業判断が紛れ込んでいるからだ。

「値段を上げると、お客が増える」?

 たとえば、お盆の真っ最中に北海道に旅行したら、相当の出費になるだろう。ホテルも航空券もレンタカーも、需要が多い時期「なので」値段も高い。まぎらわしいが、「値段が高いので客が多い」のではなく、「客が多いので値段が高い」という逆の因果関係になっている点に注意してほしい。