
「AIで仕事がなくなる」というストーリーを検証するために、前回は私たちの仕事を細かくタスク分けしてみた。その結果、各職業がどれくらい自動化できそうかの目安にはなりそうだが、数字自体は計算の前提次第でコロコロ変わってしまうので、あまり当てにならなそうだと分かった。
そういうベタなミクロ実証研究とは対照的に、今回は思いっきりマクロな視点から眺めてみよう。
自動化とは「資本」で「労働」を置き換えること
1国全体でどれくらいの労働力が必要とされるか(労働への需要)は、自ずと「自動化」の影響を受けることになるだろう。タスクの自動化が進んだとき、労働需要は増えるのだろうか、それとも減るのだろうか?
「自動化」は、コンピュータ・アルゴリズムやロボットという機械への「投資」によって可能になる。だから自動化とは、それらの投資の積み重ねである「資本」の働きによって、人力での「労働」を代替するものだと言える。こう頭を整理すれば、その先のロジックも見通しが立てやすい。
もしもマクロ経済学に触れたことのある読者がいたら、経済活動の生産面に注目したコンセプトである「生産関数」が、
という形で表現されていたことを思い出そう。1つひとつのタスクについて、あるいは企業について、「ミクロな生産関数」を考えることもできるし、ある地域や国全体について「マクロな生産関数」を考えることもある。
問題は、この「関数」がどんな形をしているかだ。生産関数のカタチ次第で、機械と人力のあいだの代替・補完関係や、ひいては「自動化が労働需要にもたらすインパクト」も変わってくる。
消える仕事 vs 新たな仕事
自動化によって労働力への需要がどのくらい増えるか、それとも減るかは、必ずしも自明ではない。
たとえば、エレベーターガール(エレベーター運転士)という仕事は、今でも時折デパートで目にすることはあるものの、基本的には「絶滅危惧種」だ。自動化の犠牲者とも言えるだろう。しかしその一方で、エレベーターの自動運転化によって生まれた仕事もある。「エレベーター運行システムの開発や管理」といった役割だ。
個々のタスクや職業が自動化されたときに「経済全体で労働需要が増えるか減るか」については、どれだけ熱心にエレベーターガールを観察していても、分からない。新たな仕事は同じデパート内ではなく、むしろエレベーター製造会社や運営会社の方で生まれているからだ。広い範囲における自動化のインパクトを知るには、その自動化技術が「奪う仕事」と「生む仕事」の両方を視野に入れねばならない。
アメリカでは「消える仕事」の方が多かった
米マサチューセッツ工科大学(MIT)のダロン・アセモグル教授がカナダ・トロントで発表した論文「自動化と新タスク」(原題は「Automation and New Tasks:The Implication of the Task Contents of Technology for Labor Demand」)は、この「消える仕事と新たな仕事」という視点を重視し、独特なカタチをした生産関数を提案(=仮定)している。
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