
このように機械学習の射程範囲をハッキリさせていくと、何でもかんでもうまく自動化できるとは限らないことが、浮き彫りになる。もちろん、機械が苦手とする「論理」や「証明」や「特殊技能」を、それではフツーの人間がどれくらい身につけているかというと、それは別問題だが……。
自動化の普及を左右する6つの「経済学的ファクター」
また、仮にあるタスクの「機械化が可能」になったとしても、それが現実世界で普及したり、人力による労働力への需要・賃金にインパクトを及ぼす過程は、実はけっこう複雑である。同『サイエンス』記事が指摘するとおり、技術的な問題の他に「経済学的なファクター」にも影響されるはずだ(表2)。
1.タスクの自動化のしやすさ(技術的な代替可能性)。 |
2.そのタスクの成果物への需要が、最終価格にどのくらい左右されるか(価格弾力性)。 |
3.複数タスク間の補完性。 |
4.そのタスクの成果物への需要が、消費者の所得にどのくらい左右されるか (所得弾力性)。 |
5.人間の働く意欲が、どのくらい賃金に左右されるか(労働供給の弾力性)。 |
6.ビジネス全体の構造が、どう変化するか(生産関数の変化)。 |
網羅的に列挙しようとするあまり、この表はやや抽象的にすぎる感もあるが、「総論」的な記事なので仕方あるまい。これらの経済学的コンセプトの詳細については、入門レベルの教科書に譲る。オススメは、神取道宏著『ミクロ経済学の力』(日本評論社、2014年)だ。
結論は全部スルーし、根拠とロジック「だけ」を吟味
さて、タスク分けの最新研究に話を戻すと、正直、経済学者の仕事としてはかなりベタな分析だし、「職業」や「作業」をどう整理するかによって「自動化のしやすさ」の数値は大きく変わってくる。また、そもそも「今後10年間における、個別タスクの自動化のしやすさ」についての技術的見解も、専門家の間ではかなり議論が分かれるだろう。
だから筆者から読者へのアドバイスとしては、「あなたの仕事が危ない!」風の議論や数字を見るときには、とにかく結論そのものはスルー(無視)しよう。こういう話題についての「結論」は、当たるか外れるか分からない株価の予想みたいなもので、つまらない。
そうではなくて、「何をどうやったら、そういう数字とメッセージが出てくるのか」という、前提条件や考え方のプロセスに(のみ)注目するのが、正しい大人の読み方だ。
ベタなミクロ実証研究から言えることは、このあたりが限界だ。次回は、思いっきりマクロな視点から俯瞰してみよう。
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