仮想通貨を使って企業が資金を集める「ICO(新規仮想通貨公開)」が世界中で話題を集めている。従来の資金調達の煩わしさを解消した素晴らしい仕組みとも評されるが、今後の普及は疑わしい。(日経ビジネス2017年10月9日号より転載)

岩下直行(いわした・なおゆき)
京都大学公共政策大学院教授

1962年生まれ。慶応義塾大学経済学部卒。日本銀行の初代FinTechセンター長。2017年から現職。PwCあらた監査法人のスペシャルアドバイザーを兼務。

(写真=David Malan/Getty Images)

 企業や個人が独自の仮想通貨を発行して資金を調達する「ICO=イニシャル・コイン・オファリング(新規仮想通貨公開)」が世界で広がっている。2017年4?7月には世界のICOでの資金調達額が、VC(ベンチャーキャピタル)による出資額を抜いた。

 企業にとどまらず、北欧のエストニアなど国家レベルで発行を検討する動きも出ている。日本でもICOで資金を集める事例が出始めた。

 ICOを使えば、スタートアップ企業が従来の資金調達方法に頼ることなく何億円も調達できる。そのため起業のハードルを下げ、イノベーションを生み出すものと評されることがある。本当にそうなのか。一度、疑問を呈する必要があるだろう。

起業モチベーションを破壊

 まずICOの仕組みを説明しておく。企業が事業資金を集めたいと考えた場合、社債の発行やIPO(新規株式公開)などが一般的なやり方だ。これに対しICOは、企業が「トークン」と呼ばれるものをインターネット上で販売し、投資家がビットコインなど既存の仮想通貨で購入する。

 トークンはその後、仮想通貨取引所で上場することで相場が形成され、投資家は値上がりしたタイミングで売れば利益が出る。企業は手に入った仮想通貨を換金して資金を調達できるというものだ。IPOと似た部分があるが、証券会社による審査などを経ていないのが大きな特徴だ。