女性活躍や働き方改革に向けた議論が注目される一方、共働き夫婦のワーク・ライフ・バランス改善は進まない。「家計を支えているのは夫だ」との認識を変え、妻に偏りがちな家事や育児負担の是正が求められている。

(日経ビジネス2018年9月3日号より転載)

筒井 淳也[つつい・じゅんや]
立命館大学
社会学研究科教授

1993年一橋大学社会学部卒業、99年一橋大学大学院博士後期課程満期退学。博士(社会学)。2014年4月から現職。専門は計量社会学、家族社会学。

 2018年6月に働き方改革関連法が混乱の末に成立した。法案審議では裁量労働制を巡る労働時間の調査結果に不適切なデータが含まれていた問題が注目されたが、15年8月に成立した「女性活躍推進法」と合わせて、日本の労働市場を支える共働き夫婦の支援にどのように役立つかという視点で冷静に評価することが重要だと考える。

 日本の労働市場が抱える大きな問題の一つは、共働き夫婦の置かれた過酷な環境にある。17年の共働きは1188万世帯と専業主婦世帯(641万世帯)を大きく上回り、日本の労働市場を支える重要な存在だ。しかしながら、法整備などで夫婦が仕事と家事・育児を両立するのを支える体制が整っていない。

(写真=PIXTA)

人手、時間ともに不足

 例えば、午前9時から午後5時までフルタイムで働く夫婦を考えてみよう。通勤に1時間半かかると想定すると、少なくとも午前7時半から午後6時半までは、夫婦どちらとも家にいない状況となる。これだけ平日家を空ける時間がありながら、子育てや家事を分担するのは現実問題として非常に厳しい、ギリギリの生活といえる。さらに、家族の誰かが病気になってしまえば、生活にも仕事にも支障が出てしまう。

 日本の共働き夫婦が置かれている厳しさは、海外と比較すると更に際立つ。例えば、北米の場合、フルタイム共働きカップルは家事・育児を移民などのドメスティックワーカー(家政婦)に頼るケースが多く見られ、仕事以外の負担は日本に比べて少ない。欧州では、正規雇用者でも労働時間が日本に比べて短く、勤務時間の柔軟性も高い。夫婦がお互いに家事・育児のための時間を捻出するのは日本に比べて容易だ。

 働き方改革関連法や女性活躍推進法は、労働市場の中心的な役割を担いながら海外に比べて制度面でのサポートが少ない日本の共働き夫婦を支援する役割が本来求められてきた。

 しかし、手厳しい意見を述べると、一連の政策については共働き夫婦の支援にはつながっていない。高度プロフェッショナル制度創設で一部専門職を労働時間規制の対象から外すなど、企業経営者の意向ばかりが反映された結果となっている。筆者の見方では、働き方改革関連法と女性活躍推進法のそれぞれに大きな問題点がある。

 まず今回の働き方改革関連法では、肝心の共働き夫婦の生活改善に向けた条項がほとんど盛り込まれず、国会審議でも争点にはならなかった。この法案で、具体的に労働環境の向上につながるのは残業時間の上限規制などのみで、この規制も過労死の防止を念頭に置いた内容であり、共働き夫婦の労働負担軽減には直接的には寄与しない。

 また、従業員が退社してから翌日出社するまでに一定期間をおく「勤務間インターバル制度」が努力義務にとどまるなど、法律全体としての実効性にも欠けている。共働き夫婦や女性の労働環境改善という課題は後景に退いた。