人手不足が叫ばれているが、取り残された存在がいる。中高年の非正規雇用労働者だ。公的な教育支援制度を充実し、彼らのスキルアップを図ることが、社会全体のメリットにもなる。

(日経ビジネス2018年8月27日号より転載)

星 貴子[ほし・たかこ]
日本総研 調査部
副主任研究員

1985年早稲田大学卒業後、91年日本総合研究所入社。システム開発関連部門、調査部アジア研究センター、同IT政策研究センターなどを経て、2006年から現職。

 155万人──。これは、2018年4~6月期で、正規雇用の職を希望しているが非正規に甘んじている中高年労働者の数である。介護などを主な理由として挙げる者も含むが、この数字は、16年の新社会人の数を上回る。

 本稿では35~54歳を中高年と定義する。人手不足が叫ばれる中、就労経験の乏しい若者が引く手あまたな一方、自らの経験や能力を生かし正規職で働く意志のある中高年が、非正規雇用として存置されている。

 非正規労働者をめぐる状況は厳しい。下の図のように、正規労働者であれば、役職定年や早期退職の年齢層が含まれる55歳以上を除き、年齢が上がるに従い賃金は上昇する。一方非正規では、30歳以降の賃金は頭打ちだ。

中高年になるにつれ正規と非正規の賃金差が広がる
●正規雇用と非正規雇用の月額所定内給与の差

注:厚生労働省「賃金構造基本統計調査(2017)」を基に編集部作成

 バブル崩壊後の景気低迷で非正規化が進む。終身雇用、年功序列を基本としていた時代は、企業が労働者の能力開発を担っていた。だが長引く不況下では、企業は正社員に対する教育投資も控えた。非正規社員にはなおさらである。彼らは社内で十分な教育機会も得られず、また金銭的に外の教育機関に通うことも難しく、能力開発の機会を失ってしまった。

 だが、見方を変えると、彼らは「金の卵」かもしれない。就職氷河期にぶつかり非正規になってしまったが、もともと学力の高い人も多い。また、非正規だとしても同じ職種に何年も従事して基本的なスキルを身につけている人もいる。

 彼らを戦力化するうえで、改善しなければならないのが、日本の公的な能力開発支援制度だ。伝統的に企業が従業員の教育を担ってきたため、公的制度の使い勝手が悪いのだ。

北欧では「有給」で教育休暇

 大きな問題の一つが、在職者向けの制度が少ないこと。例えば、ハロートレーニング(公的職業訓練)の対象者は、主に求職中の失業者、未就労の新規学卒者などだ。正規・非正規にかかわらず、在職者には利用しづらい。

 さらに、企業ニーズに合致していないのも問題だ。ハロートレーニングなど公的な支援制度では、行政や公的機関がプログラムの作成、審査を担う場合が多く、企業や産業界が関与するケースは少ない。

 では、どのように制度を整備すればよいだろうか。参考にできそうなのは、北欧の制度だ。北欧では、「能力開発は労働者の権利」という考えが社会に根付いている。就労状態や年齢にかかわらず、誰でも学び直せる制度が整っている。その中でも先進的な取り組みをしているスウェーデンとデンマークの例を見ていきたい。