日本が温暖化ガスの排出削減目標を達成するには、30年までに約75兆円の省エネ投資が必要だ。エネルギー効率の向上は産業競争力に直結する。巨大な投資需要を景気浮揚の起爆剤にする視点も重要だ。

(日経ビジネス2018年8月20日号より転載)

吉川 聡一郎[きっかわ・そういちろう]
三井住友銀行
国際環境室室長代理

2005年京都大学経済学部卒、三井住友銀行入行。14年、早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。日本総合研究所調査部への出向などを経て16年4月から現職。

 近年、気候変動に起因するとみられる自然災害が世界各地で頻発している。日本でも7月に発生した西日本豪雨が甚大な被害をもたらした。こうした極端な気象現象は、気候変動が進むことで増加することが指摘されている。実際、世界の大規模な自然災害の発生件数をみると、近年は1980~90年代の平均の2倍の水準であり、そのうち洪水や台風、ハリケーンといった、気候変動と関連する可能性の高い災害が8割以上を占めている。将来、温暖化がさらに加速するとみられ、気候変動対策は日本においても待ったなしの社会的な課題となっている。

 2015年にパリで開催された第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で「パリ協定」が採択され、各国は温暖化の主因であるCO2(二酸化炭素)の排出量について、自主削減目標を設定した。日本は30年までに、13年比26%の削減を掲げているが、これに従えば、30年のCO2排出量を1980年代前半と同水準まで減らす必要がある。日本は世界トップレベルの省エネ先進国だが、この目標を達成するには、産業界はさらに大幅にエネルギー効率を引き上げなければならない。省エネ関連規制の強化や炭素税の導入などが始まれば、各企業は、これまで以上に大胆な省エネ投資を迫られる可能性もある。

気候変動などで災害が増えている
●世界の大規模な自然災害の発生件数
出所:ミュンヘン再保険のデータを基に筆者作成
日本で相次ぐ豪雨災害も、温暖化が一因とされる(写真=PIXTA)

立ち上がる巨大市場

 では、その額は日本全体でどの程度の規模になるのだろうか。将来想定される省エネ投資の規模は、「資本のエネルギー代替効果」によって試算することが可能だ。

 一般的に、企業などの経済主体は資本、労働、エネルギーといった生産要素を最適に組み合わせることで生産活動をしている。このうち資本とエネルギーは相互に交換可能な関係にあり、何らかの理由でエネルギー調達に制約が生じ、資本との価格比が変化することにより資本設備への代替投資が生じる。こうした企業活動が省エネ投資に相当し、例えば原油価格の高騰や省エネ規制の強化などを背景として、「資本によるエネルギーの代替」が起こる。

 このときの省エネ投資の規模、すなわち代替効果は、資本とエネルギーの限界代替率、つまり「生産水準を維持したままエネルギー投入量を1単位減らすため、その代替として必要となる資本投入量」で示される。省エネ投資は、電気自動車やLED(発光ダイオード)、ビルや工場の省エネ設備導入など、エネルギー効率の改善を目的として既存の資産を切り替える際の投資を指す。太陽光発電や風力発電といったエネルギー供給事業への投資は含まない。