先進国の中でも日本は、一部の大都市に人口が過度に集中する特異な国だ。戦後に新幹線や高速道路の整備が東京や大阪、名古屋に偏ったため、日本海側の都市が衰退していった。

 高度成長期に「日本列島改造論」を掲げた田中角栄首相が地方に道路や鉄道を必要以上に整備したという「常識」を信じる人は多いだろう。しかし欧米先進国のデータと見比べれば、地方の交通インフラの整備は圧倒的に足りないことは明白だ。

 南海トラフ地震は人口が過度に集中した大阪や名古屋を直撃するため、被害額はおのずと大きくなる。これに対して地方にも人口が分散していれば、当然今回の試算ほど被害額は大きくならない。

 大都市に人口が集中する弊害は、首都直下地震でより顕著だ。土木学会の委員会では、首都直下地震の被害額を20年間で778兆円と試算。そのうえで、耐震補強に10兆円を費やせば、被害は約3割に相当する247兆円が圧縮されるとした。

 ただしそれでも7割の被害が残存する。これを抜本的に縮減するには、人口の地方分散を図るしかない。土木学会の試算では、地方部の新幹線の整備などを通して仮に3割の分散化が果たせるなら、被害は半減以下になると推計している。

18世紀にはポルトガルが没落

 ところで一部の大都市に人口が集中したまま南海トラフ地震が起きれば、被害額は1410兆円では済まない、と筆者は思っている。というのも今回の試算のベースとした阪神大震災では、東京や名古屋などの経済圏はほとんど影響を受けることなく、兵庫県をはじめとする被災地を支援できた。

 一方、南海トラフ地震では大阪や名古屋はもとより、東京を含めて主要な経済圏が軒並み影響を受ける。被災地は国内から十分な支援を受けられず、GDPは20年で回復しない可能性もある。

 1755年、ポルトガルの首都リスボンを大地震が襲い、経済は壊滅した。当時植民地拡大で栄華を誇った同国はこれ以降、現在に至るまで大国の地位を回復できていない。同じように日本にとり南海トラフ地震が長い低迷期の入り口になる可能性がある。数百年では利かず、1000年単位の低迷となる恐れすらある。

 東日本大震災では「1000年に1度」という想定を超える規模の地震が発生したとされた。今回、土木学会は考え得る限り最大の被害を織り込んだ。つまり、もはや「想定を超えた」との言い逃れはできない。国は都市機能の分散などの抜本的な対策に本気で取り組む必要がある。

(構成=吉野 次郎)