企業では活躍の場「無限大」

 滋賀大学が2017年に日本初のデータサイエンス学部を立ち上げたのは、この3つのスキルを持ち合わせた人材を育成するためである。既存の大学でも統計やITなど専門家を育成するコースはあるが、総合的に育成する学部はなかった。

 データサイエンス学部ではいわゆるゼネラリストを育てながらも、3つのスキルの中のどれかに特に強みを持った人材を育成し、企業で活躍してもらうことを目指している。

 経済産業省による調査でも、データサイエンティストなど先端IT人材は20年でも5万人ほど不足するという結果になっている。欧米の大学では以前からデータサイエンティスト育成専門のコースが充実しており、日本でも滋賀大学以外に横浜市立大学でデータサイエンス学部が設置されている。今後もこの流れはさらに広がるだろう。

 データサイエンスがどのような分野で活用できるのかも見ていこう。分かりやすいのは車の走行データだ。速度や加速の仕方、ブレーキのかけ方といった動作のデータを生かして自動運転のロジックを組み上げるのに使うものだ。

 最近では損害保険業界もこの走行データに注目している。事故を起こしやすい運転かそうでないかを分析して、契約者の事故率を自動車保険料に反映させたり、事故が起こりにくい運転の仕方をドライバーに促したりすることで保険の付加価値を上げる。

 保険料に反映させる仕組みは、実際にトヨタ自動車の車から取ったデータを対象に、あいおいニッセイ同和損害保険が18年に商品化している。

 クレジットカード会社も積極的な企業の一つだ。不正利用を抑止することが目的である。これまでも本人ではない人物による不正利用を検知するような先進的な仕組みを導入してきたが、正しい利用を不正として判定してしまうことがある。

 そうした現状では、顧客に不便に思われたうえに他のクレジットカードにメーンカードの座を奪われかねず、クレジットカード会社自身も手数料を得る機会を失う。

 まだ現実的ではないが、例えばクレジットカード所有者のスマートフォンのGPS(全地球測位システム)などと連携できれば、誤判断の確率はグッと減る。不正かどうかを精緻に判断し、本当の不正利用のみを狙おうとする取り組みだ。

 業種に関係なく共通するのは「不正の発見」だ。社内データを改ざんしたり、会計データをごまかしたりといった不正の兆候を見つけ出し、大きな被害が及ぶのを未然に防ぐというものだ。企業を監査する立場である監査法人でもこうした不正発見の手法を研究、利用する動きが広がっている。

課題は人材育成

 データサイエンスの重要性を意識しはじめた企業がぶつかる壁は、どう人材を集めるか、およびどう分析を始めるかだ。ネット系の企業や、システム開発系の企業は元からITエンジニアも多く、これまでもデータ分析の経験があることから始めやすい。だがそうでない製造業などの企業は、自社で育成するか、外部委託するかの方法がある。外部委託の場合は、一般的には大手ITコンサルティング会社や専門会社に任せることになるだろう。

2020年に5万人も不足するIT人材
●先端IT人材の必要性に関する調査
出所:経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」

 自社で育成する場合は、まずは社内から事業内容全般に詳しい人物を選ぶことが必須で、さらに外部か内部から統計分析やツール開発などに習熟した人物を引き入れる必要があるだろう。

 ここに若手社員を入れ、業務を通じて育てていくチームを組むという選択肢もあるが、時間がかかる。欧米では、人材育成や業務でデータ分析を活用するうえで、データサイエンス学部のある大学と協力するケースが多い。

 これはデータサイエンスが、実際のデータやビジネスの課題を研究対象にしているため、企業との連携により研究そのものが進むメリットがあることによる。

 さらに学生も、学生のうちに企業で研究に取り組めることにより、早くから実践経験を積んで社会に出ることができる。企業にも大学にも学生にもメリットが大きい。実際に筆者が勤める滋賀大学でも、トヨタ自動車や堀場製作所など60を超える企業や団体とすでに連携し、成果が出始めている。

 希少かつ高額な賃金の高度人材を中途採用でスカウトするのも、限界がある。外部とも連携しながらいかにうまく社内で高度人材を育成していくかが、カギの一つになるだろう。