日本国内のみで事業展開する企業にも、人権はひとごとではない。

 ここ数年、日本では違法な残業労働や残業代の未払いが表面化する企業が相次いでいる。こうした企業は官公庁や地方自治体などから一定期間の入札停止を言い渡される場合が多い。会社のイメージの悪化も避けられず、新卒・中途採用にも悪影響が及ぶ。

 また、最近では取引先まで含めたサプライチェーン全体で人権尊重を徹底すべく、サプライヤーの人権への取り組みを調査する動きもある。

 一例がLIXILグループ。ウェブなどで公開する調達方針に「人権基準を尊重するとともに、適切な労働環境を重視します」と明記。調達先に対しても雇用差別やハラスメントの禁止、団体交渉権の行使容認などを求めている。

取引先にも人権対応が求められるように
●LIXILグループ「CSR活動状況調査票」を要約抜粋

企業理念や行動規範に「人権を尊重する」と明記し、公表していますか。

人権に関する社内の責任者と推進部門を設置していますか。

人権侵害を起こしたり加担したりしないよう、全社員に教育していますか。

人権侵害が発生した際の対応方法は、あらかじめ明確になっていますか。

人権侵害からの救済を目的とした相談・通報窓口は設けていますか。

人権侵害が発生していないか把握する監視の仕組みを設けていますか。

 同社が取引先に対して実施しているアンケートには「人権に関する社内の責任者と推進部門を設置していますか」「人権侵害が発生したときの対応方法は、あらかじめ明確になっていますか」「人権侵害が発生した場合に、救済を目的とした相談・通報窓口は設けていますか」といった具体的な設問が盛り込まれている。取引先には3段階で回答してもらい、結果は取引先を選定する上での判断材料としている。

 イオンも人権や労働環境についての国際基準である「SA8000」の認証を取得。児童労働や強制労働の排除などを掲げ、取引のあるサプライヤーにも規範の制定と順守を働きかけている。

 海外で事業展開していない中小企業であっても、人権尊重に重きを置く社内体制の整備が遅れれば、いずれ大口納入先からの発注を失う恐れがある。

「人権」がビジネスになる

 逆に、人権にまつわる課題に先行して取り組めば、取り組んでいない企業より受注を獲得するチャンスは増える。

 人権が現在そうであるように、かつては「環境」もビジネス領域としては捉えられておらず、どちらかというとCSRの文脈で語られていた。環境対応は企業にとってコストであり、利益の源泉とは捉えられていなかったのだ。

 だが1997年に京都議定書が採択され、その後に米副大統領を務めたアル・ゴア氏が「不都合な真実」で環境問題を啓発すると、企業は事業に環境の視点を組み込み始める。今日では環境関連のビジネスは世界で数十兆~数百兆円規模の市場があるとみられる。

 人権をめぐっても、2011年に国連人権理事会で「ビジネスと人権に関する指導原則」が承認され、人権の保護が「国家の義務」ではなく「企業の義務」と位置付けられるようになっている。国連は各国に対して行動計画の策定を求めているため、日本でも向こう数年の間に、企業活動に影響する国内法が制定される可能性が高い。環境の後を追う形で「人権ビジネス」の市場が拡大していくのは間違いない。

 人権問題と聞くと「途上国における子どもの人身売買」や「紛争地域における少数民族の迫害」など、どうしても日本人の日常生活とはかけ離れた場所で起きているものを想像しがちだ。しかし、これからのビジネス界では人権対応の巧拙が会社の業績を左右することになる。世界中の耳目を集める東京五輪も控えるなか、日本企業には人権対応を経営の最重点課題として推し進めるくらいの覚悟が求められている。