2019年度から新たな税「森林環境税」を創設することが与党税制改正大綱で決まった。すでに森林保全を目的とした独自の税を課している自治体もあり、二重課税との批判も強い。

(日経ビジネス2018年5月28日号より転載)

片野 洋平[かたの・ようへい]
鳥取大学農学部
生命環境農学科准教授

1974年生まれ、上智大学大学院法学研究科法律学専攻単位取得退学。2009年博士(法学)。08年より鳥取大学農学部助教、17年より現職。

 新しい国税「森林環境税」が2019年度に創設されることが、18年度の与党税制改正大綱で決定した。個人住民税に上乗せし、約6200万人の住民から年1000円を徴収する見込みだ。実際に徴収が始まるのは東日本大震災の復興税がなくなる24年度からだが、将来の税収を前借りする形で都道府県と市町村に19年度から約200億円が配られる見込みだ。

 新税の目的は何か。林野庁は「都市・地方を通じて国民一人ひとりが等しく負担を分かち合い、国民皆で森林を支える仕組み」と説明している。

 なぜ森林の整備が必要とされるのか。それは、森林には様々な機能があるからだ。一例が、土砂災害の防止だ。森林は表土が落ち葉や枝などで覆われ、直接雨に打たれにくいうえ、水を吸収するため土壌が流出しにくい。

 二酸化炭素吸収による地球温暖化の防止や、雨水が森林の土壌を通過することで水質が浄化される水源涵養などの機能もある。

 日本の森林総面積は2508万ヘクタール。そのうち、私有林は1443万ヘクタールと半分を超える。特に過疎地では間伐がされないまま放置された人工林の管理が喫緊の課題だ。

 林野庁は、私有林が整備されず、放置されている要因を、担い手不足、所有者不明の森林の増加、木材価格の低迷で経営意欲が低下していることとしている。世代交代や過疎化などで今後状況がさらに深刻になるとみる。

 税収は、具体的には森林所有者の明確化や林地台帳の整備、間伐を市町村が実施することに充てられるとしている。だが現在、森林整備にはすでに1200億円が国から県を通じて市町村に補助されている。年500億~600億円不足し、補正予算で毎年追加している。新たな国税でこれを補塡するのでは、と指摘されている。さらに横浜市のほか、栃木など37府県が森林管理に関係する税を独自で徴収しており、その総額は16年度に341億円に上った。森林環境税はこれらの税と二重課税になるとの批判もある。

 これに対し林野庁はそれぞれの税との間では「役割分担がある」と説明する一方、「実際に導入されるまでの間に各自治体で整理の検討がされるはず」としている。

広く国民から徴収する
●森林環境税の概要
目的 市町村が実施する森林整備に必要な財源の徴収
対象 国内に住所がある個人。住民税と合わせて徴収
課税開始時期 2024年度
1人当たり課税額 年1000円
課税見込み総額 年600億円
使途 24年度までは特別会計から前借りする形で年総額200億~300億円を自治体に配分。当初は都道府県2、市町村8の割合で配分するが、段階的に都道府県1、市町村9の割合に変更する
<span class="fontBold">手入れされず放置された森林整備の財源とする</span>(写真=PIXTA)
手入れされず放置された森林整備の財源とする(写真=PIXTA)

次ページ 放置資産は森林だけではない