一方で、昨今は個人情報保護への関心が高まっている。個人識別や行動監視の安易な導入には、法的リスクだけでなく、顧客離れや社会的批判を受けるリスクがあることも考慮すべきだ。

 筆者は個人情報保護法の改正作業にも関わった。2017年5月から施行された改正法では、指紋や虹彩に加えて、目や鼻、口の形状や位置という顔識別のためのデータも個人情報として整理されることになった。

 顔や生体情報が個人情報となると、それらを利用するには本人に説明し、同意を取る工程を経る必要が生じる。同意は文書である必要はない。例えば、カメラの設置・撮影エリアを明示し、そのエリアに主体的に入った場合は同意しているとみなしていいケースもある。

 このときに顔識別で得た情報も利用するのであれば、それにもまた、利用目的の説明が求められるだろう。防犯目的として取得したデータを、マーケティングなど同意した利用目的以外で使った場合には法的問題が生じる。商店街など複数事業者間で横断的に顔識別を利用する場合は、第三者提供や共同利用に相当し、さらなる説明と同意が必要となる。

 これらの制約は後ろ向きに見えるかもしれないが、逆に言えば、適切な説明と同意があれば、その範囲内で自由に利活用できるととらえることもできる。

 個人情報の利用では、同意を取ることが難しいと主張する事業者もいる。ただ、同意とは、個人が情報を預ける事業者を信じられるのか、を問うているのと同じことだ。個人情報の漏洩や同意なしの第三者提供はもちろん、目的外利用は信頼を失うことになる。

企業はデータを「捨てる」勇気を

 技術的な問題もある。例えば、顔識別では顔の鼻、口などの形状や位置などの特徴部分に着目し、類似した人をデータベースの中から探し出す。しかし、精度は100%ではない。

 該当者がデータベースにないと判定されることもあるし、データベース上の別人と混同されることもある。個人の権利や利益の侵害を避けなければならない。これに対する防止策と救済は必須である。

 識別性能はカメラを利用する状況や用途にも深くかかわる。国内メーカーが提供する顔識別システムの大半は民生用で、明るい場所で、正面またはやや斜め向きの顔を識別することに特化している。空港などに設置されるテロ対策用のシステムは、カメラに映った画像からテロリストなどと特徴が一致する顔を探すことが目的で、暗い場所に適したものもある。

大手企業の新技術が採用される
●国内企業の「顔認証」技術
NEC 1980年代から研究、米国立標準技術研究所主催の評価テストで2009年から毎回トップ。米国や英国の警察でも採用
パナソニック 羽田空港の入国管理局の「顔認証ゲート」に採用。斜めからの角度やマスク姿でも発見するソフト技術を開発
グローリー 偽札鑑定の技術を応用。ソフトバンクのロボット「ペッパー」にも採用される。1秒以内の高速認証が強み
パナソニックの顔認証ゲートは帰国手続きの自動化を可能にした

意図しない情報は削除、匿名化を

 技術の進歩にも注目していくべきだ。顔識別の場合、カメラの画素数が増え、データの処理能力を上げれば識別性能は高まる。

 また、8K画像の4倍の解像度の16Kカメラであれば、サッカー場の数万人の顔を識別することも可能になるだろう。撮影する事業者は意図しない写り込みに気をつけるべきだ。本来、撮影対象ではない人が写り込んでしまう可能性は高まる。

 また、高解像度の写真に写り込んだ指から、指紋を取得することも可能だ。意図しない情報を削除したり、匿名にしたりする技術が重要になる。

 生体情報による個人識別に限らず、法制度が技術の進歩に追いつくのは難しい。技術の進歩が新しい問題を生み出すのであれば、技術を開発する側が、開発段階から想定される問題について考慮すべきだ。例えば、問題を最小化する方法、技術の利用に関するガイドラインなどを、早急に世の中に提案していくべきである。

(聞き手=北西 厚一)