教育分野でのICT活用「EdTech(エドテック)」が広がり、学校教育が変わりはじめた。教える役割が次第にデジタルに置き換わることで、教員に求められる能力も変化する。

(日経ビジネス2018年4月23日号より転載)

日戸 浩之[にっと・ひろゆき]
野村総合研究所
上席コンサルタント

1962年生まれ。東京大学文学部社会学科卒、同大学院経済学研究科修士課程修了。専門はマーケティング戦略、教育などのサービス業の事業戦略の立案など。

 学校教育の現場でICT(情報通信技術)を活用する取り組みが広がると、学校で知識を教える役割の一部は電子教材が担うようになる。教員の役割は指導者から、学習者を励ますメンターのようなものに変わるだろう。

 教育現場でのICT活用は、Education(教育)とTechnology(技術)を掛け合わせた「EdTech(エドテック)」という造語で呼ばれている。総務省の研究会資料によれば、2020年のEdTechの世界市場規模は11兆円超と、15年実績の2倍以上へ急成長する見通しだ。

 さまざまなEdTechが登場する中で、「アダプティブラーニング」と呼ばれる教育方法が注目を浴びている。アダプティブラーニングとは、生徒の学習進捗に合わせ、学習内容や難度を調整した学習コンテンツを提供し、学習効率を高めようという教育方法だ。しかし従来は習熟度別のクラス分けなど限定的な実施にとどまっていた。

 教員が一方向に教える方法では難しかったアダプティブラーニングは、電子教材を使うことで実施しやすくなる。試験の解答などをビッグデータ分析して学習者の思考の癖や弱点を見抜き、最適なデジタルの教材を自動提案するようになる。利用履歴のデータから学習進捗も把握できる。

 米ニュートンはアダプティブラーニングを実施するための機能をソフトウエアにして教育機関や教材会社などに提供している。ベネッセホールディングスとソフトバンクが共同設立したClassi(クラッシー)はこのソフトを自社のサービスの「問題集パック」などに組み込んでいる。これは、高等学校向け問題集にある3万問以上の中から生徒の理解度に合わせて自動で出題するサービスだ。本格提供に先駆けてクラッシーが15年に全国8校、1500人の高校生を対象にした実証研究では、自主学習の時間が増加して偏差値換算で1~5ポイントの学力が向上し、学習満足度も高まったという。

重要性が増す教育ビッグデータ

 アダプティブラーニングに限らず、EdTechでは学習者の学習に関する情報を収集・蓄積する。その情報は学習者自身にも提示することが重要だ。これは教育工学の分野で「eポートフォリオ」と呼ばれる考え方で、学習の進捗や試験の結果だけでなく、授業のメモ、教員のコメント、サークルや課外活動など、「学び」に関わるあらゆる情報をデジタルにして記録する。

学校教育がデータで変わる
●個人別の学習に関する情報の収集・蓄積と活用
出所:森本康彦「eポートフォリオとしての教育ビッグデータとラーニングアナリティクス」(コンピュータ&エデュケーション VOL.38、2015年)より作成
(写真=Greyscale / PIXTA)

 eポートフォリオを使うことで、学習者は学びの内容を客観的に見つめ直しやすくなる。一人ひとりの学習過程を詳細に記録しているので、試験結果では把握できない生徒の能力や成長を教員が評価できるメリットもある。