:新入社員のときに素質を見ているんですね。何も教えてない状態でも、試し書きさせたときに違いが分かる感覚の持ち主と全然分からない人がいるので、テストをして感覚を持っている人を集めて、そこから選んで相当期間トレーニングしている。

Y:そんな大変な修業をするんですか。

:前任の方は50代だったそうですが、一気に若返りましたね。

:この若さでなるのは珍しいと思います。経験も重要ですが、書き味から、香りまで、五感をフル動員する仕事なので、感覚、感性はやはり年を取れば自然に衰えていきます。そこで、新しいランナーにたすきをつないだわけです。

Y:(古川さんに)自分の感覚でラインが停まる、って、怖くありませんか。

:もちろん緊張しますね。

:古川が一言言えばすぐ停まる、という形では緊張しすぎてしまいますから、なにかあれば私なりがすぐ調べて、フォローしつつ対応を進めます。重要なのは、古川が“神様”ではいけない、ということです。

:では、何なのでしょうか。

:古川は、お客様の代表なんです。もちろん、実際のお客様は好みも感覚も千差万別です。理屈で言えば全てに対応するのは無理ですね。それでも我々は、せめて感覚の鋭い社員を選び、できるだけ客観的に「人間」の感覚を評価に入れて、品質を保ちたいと思っているんです。千差万別の感覚を持つお客様の「代表」として。

Y:なるほど、しかし、数値的なデータで管理するだけでは足りませんか。

:うん、数字でももちろん管理していますよ。そして、デジタルなデータと官能検査はある程度は整合します。でも、全てでもないんです。

:そこで悩むことも多いです。

「数字上は大丈夫です」とは、お客様に言いたくない

:機械による検査が基本的には中心です。でも、「数字上はOKですから、我々は責任を果たしています」とは、私は、そして三菱鉛筆は、お客様にはどうしても言いたくないんです。

:なぜでしょう。

:うん、たとえば鉛筆って、ものすごくタフな筆記具です。暑い場所でも寒い場所でも問題なく筆記できますし、上向き筆記もボールペンのように空気が入らないので可能ですよね。

Y:寿命ってあるんでしょうか。

:難しいですね。確証がある数字は持っていないです。

:しかも、お客さんはそれをいつ使うか分からない。

:それでも我々は、例え時間が経っても、お客様がお使いになった時に「うん、いつもの三菱鉛筆の鉛筆だ」と感じて欲しい。だから「数字上は問題ありません」と逃げるのではなく、数字では表れない部分を含めて確認しておきたい。そのために、トレーニングを積んだ社員がお客様の代表として「大丈夫、いつもの鉛筆の書き心地です」と確認する仕組みを、ずっと続けているんです。

Y:自社の社員が自分で確かめている、という姿勢でありたいということですか。

:これぞ百年企業、な言葉ですね。