「世界を、ここから動かそう。BEYOND THE MOTOR」をテーマに、「第45回東京モーターショー2017」が10月27日から、東京ビッグサイト(東京・有明)で開催される。自動運転、つながるクルマ、電動化など、これからの10年、自動車産業を核として新しいモビリティー社会が生まれようとしている。新しい時代に向けて、自動車メーカー各社や関連産業はどのようなロードマップで新しいモビリティーを開発していくのか。モーターショー直前スペシャルとしてその動きを探る。
NTTとトヨタ自動車は2017年3月、次世代の移動通信技術である「5G(第5世代移動通信)」を活用するコネクテッドカー(つながるクルマ)の研究開発で協業すると発表した。多数のクルマから車両の状態や走行データなど情報を収集して蓄積、分析処理するICT(情報通信技術)基盤の研究開発や、5Gの自動車向け標準化の推進、エッジコンピューティング技術の適用性の検証などを共同で進める。2018年に実証実験を実施して、コネクテッドカー分野での新サービスを検証する計画だ。
通信業界では、車載機器に向けた5G関連の取り組みが活発化している(表)。
NTTグループでは、NTTドコモが今回の協業以前からデンソーやディー・エヌ・エー、パスコなどとの共同研究を進めている。KDDIはトヨタと共同でコネクテッドカー用の通信プラットフォームを開発中だ。ソフトバンクは子会社のSBドライブを通じてコネクテッドカーへの5Gの活用を検討しているほか、テレマティクスシステムを提供する子会社も設立した。
自動運転用の地図を配信
5Gは現行技術のLTEに対して通信容量が1000倍の毎秒10Gビットに高速大容量化するとともに、数十ms(ミリセカンド:1000分の1秒)だった無線区域の通信遅延も数msへと短縮する。こうした高速大容量やリアルタイム性の高さを生かし、クルマへの様々な活用方法が提案されている。
例えば、自動運転に使用する高精度地図の配信もその一つ。自動運転技術では、位置精度がcm単位(従来のカーナビ用地図はm単位)の高精度な地図を使った車載システムによる運転制御が有力視されている。道路や建物といった時間的に変化が少ない情報だけでなく、一時的な交通規制や事故、渋滞といった時々刻々と変化する動的な情報を持っている。そこでクラウド側のサーバーに広域の地図データを置き、クルマに対して狭域の地図データや変化した情報を配信する方法が検討されている。
NTTドコモとパスコは、横須賀市の横須賀リサーチパーク(YRP)で高精度地図配信の実証実験を進めている。YRP内の3基の携帯電話基地局にエッジサーバーを配置。地域ごとに分割した高精度地図を各サーバーに置き、YRP内を走行する自動運転車に配信する(図1)。当初はLTEを使うが、5Gを視野に入れる。2016~2018年度の3年間で、地図の変化の差分情報だけを配信する技術や、移動中のクルマが接続先の基地局を切り替えながら通信を続ける「ハンドオーバー」などを検証する計画だ。
図1 自動走行車に高精度地図を配信
NTTドコモとパスコ共同で進めている。当初は従来の通信方式であるLTEを使うが、5Gの活用も視野に入れている
「V2X」への活用に向けた動きも
こうした地図配信は従来のテレマティクスの延長線上にある活用方法だが、5Gでは通信遅延が数msというリアルタイム性を生かし、車車間通信(V2V)や路車間通信(V2I)、車両と歩行者の通信(V2P)といった「V2X」への活用も検討されている。
V2Xの既存技術としては、無線LAN規格(IEEE 802.11)をベースにした「DSRC(Dedicated Short Range Communications)」がある。DSRCは既に実用化されており、日本ではトヨタが760MHz帯を使った「ITS Connect」というV2Xサービスを提供しているほか、国土交通省の主導による5.8GHz帯を使ったETCのサービスなども始まっている。ただしDSRCを使うには専用の通信端末を搭載する必要があるため、今のところETC以外の用途では普及には至っていない。
これに対して5Gを含む移動通信技術には、スマートフォンなどの通信端末が圧倒的に普及しているという強みがある。そこで5Gでは、「Cellular V2X(C-V2X)」という自動車向けの仕様が盛り込まれる見通しだ。つまり今後、LTEから5Gへの移行とともにコネクテッドカーが増加すれば、おのずとC-V2Xの普及が見込めるわけだ。
前方車両のカメラ映像を表示
従来の移動通信技術が通信端末と基地局間の通信だったのに対して、C-V2Xでは基地局を介さずに通信端末間で直接通信できる。2017年内の標準化を予定するLTE規格の新バージョン「3GPP Release14」では、5Gの先取りとして「LTE V2X」が盛り込まれる。ただし、DSRCによるサービスが始まっている日本や、DSRC搭載の義務化を進めている米国では、DSRCを推進する動きが依然として強い。
一方、スウェーデンEricsson社やフィンランドNokia社、中国Huawei Technologies社といった移動通信機器メーカーの強豪が多い欧州や中国では、C-V2Xの検討が本格化している。例えば2017年3月にスペインで開催された「Mobile World Congress 2017(MWC 2017)」では、独Audi社とHuawei Technologies社、英Vodafone社が、MWC会場の近郊でC-V2Xのデモンストレーションを実施した。
MWC 2017でのCellular V2Xのデモ。Huawei Technologies社がVodafone社、Audi社と共同で実施した。前方車両のカメラ映像がダッシュボードの液晶ディスプレーに表示される(写真:日経コミュニケーション)
このデモでは、V2Vでカメラ映像やステアリング、ブレーキ操作などの操作情報を伝送する技術や、V2Iで信号の事前警告を伝送する技術、V2Pで車両が歩行者の通信端末に警告を伝送する技術が披露された(図2)。例えばV2Vの映像伝送では、前方車両のカメラ映像をリアルタイムでダッシュボードの液晶ディスプレーに表示する。前方車両がトラックで目視では道路の先を見通せないときなどに役立つという。
図2 5GのV2Xでの活用例
DSRCの競合技術として移動通信を使った「セルラーV2X」の検討が進んでいる。MWC 2017ではHuawei Technologies社などが(a)車両間でカメラ映像やブレーキなどの操作情報を伝送、(b)信号機が周辺車両に対して事前警告を伝送、(c)車両が前方の道路を横切ろうとする歩行者の通信端末に対して警告を表示、といったデモを披露した。
V2Vの操作情報の伝送では、前方車両が急ブレーキを踏んだときにブレーキ情報を後続車両に通信するデモが行われた。運転者による目視や車載センサーによる検知よりも素早く前方車両の動作を把握して事故の危険性を減らせる可能性があるという。
(日経Automotive 2017年5月号から転載)
「東京モーターショー2017」併催イベントとして、「クルマの未来」を見通す大型イベント「FUTURE MOBILITY SUMMIT : TOKYO 2017 DAY2」を東京ビッグサイトで開催します。
開発が加速する自動運転技術、EV(電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッドカー)に象徴される電動化と内燃機関の性能向上について、リーディング企業が取組みの最前線を語り、2020年およびそれ以降のクルマの姿を探ります。
完成車や部品などで世界を牽引するトヨタ自動車や日産自動車、ホンダ、マツダといった主要メーカーが一堂に登壇するのに加え、SUBARU社長の吉永泰之氏が対談形式でこれからの方向性を語ります。また、つながるクルマに不可欠な常時接続を実現する通信技術について、NTTドコモ社長の吉澤和弘氏も講演します。ぜひ、ご参加ください。
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