富士通研究所が500万円を拠出

 8月中旬の東京・代官山。猛暑日のこの日、所属の異なる大企業の若手7~8人が、貸しキッチンスペースに集まった。AR(拡張現実)グラスを装着した女性がキッチンに立つ。調理法の指示をしているのはロボットだった……。

貸しキッチンスペースに集まり、議論する若手

 チームが結成されたのはその2週間前。8月4日にOne JAPANが初めて開いたハッカソンで出会った。ハッカソンとは、「ハック」と「マラソン」を組み合わせた造語で、あるテーマに基いて参加者がマラソンのように数時間から数日かけてアイデアを練り、競うイベントを指す。

 この日のテーマは「家族」。チームを結成したら3週間程度の準備期間を経て、8月25日に開く発表会で1位を決める。

 One JAPANらしいのは、このハッカソンに参加企業がそれぞれの技術やサービスを事前提供したこと。ミサワホームはハッカソンの実験場となる住宅を実際に用意し、読売新聞は女性向け掲示板である「発言小町」の膨大なテキストデータを提供。その他にも、ロボットや通信用デバイスなど10以上の技術がずらりと並べられた。

 参加者はOne JAPANの参加者やその紹介を受けた大企業の若手。普段から技術やサービスに対する感度が高い彼らにとって、こうしたアイデア出しは“十八番”である。

 この枠組みに、富士通の子会社である富士通研究所が乗った。「優れたアイデアには、発展させるための資金として総額500万円を拠出する」。ハッカソン会場の貸出しや運営も同社が買って出た。

 有志団体の取り組みに、企業が本格的に正対し始めたのである。

8月4日に開かれたハッカソン初日の様子(写真=吉成 大輔)
末田奈実氏の提案。先端技術を使ってお袋の味を再現するアイデア(写真=吉成 大輔)

 “お袋の味”を記録して再現したい――。8月4日の個人によるアイデア出しで、個性的なプレゼンをしたのが末田奈実(富士ゼロックス)だった。彼女のアイデアに興味を持ったり技術を提供したいと思ったりした数人が集まって、チームができあがった。

 2週間程度の議論で、提案の骨格が固まった。母親が使う調理器具に加速度センサーや温度センサーを設置、母親には筋電位センサーを付けて、それぞれのデータを取る。それをAI搭載ロボットに記憶させる。

 実際に調理する際には、ARグラスに母親の作業の様子が自分の手に重ね合わさったように表示される。ロボットの音声と映像をもとに調理を進める仕組み。将来的には、介護サービスや高齢者の見守りへの適用も視野にビジネスモデルを探っていく――。

 8月25日。最終発表会に参加したチームは21。単なるアイデアではなく、それぞれが実際のモックアップを使ってプレゼンする様子に、富士通研究所幹部からも感嘆の声が挙がった。

 21チームの中で、「cooklin’」と名付けた末田チームの案は最優秀に輝いた。One JAPANと富士通研究所の支援を受けながら、実際の事業化や製品化を目指して既に動き出し始めた。

ハッカソン最終日の様子。21チームがモックアップまで作ってプレゼンに臨んだ