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回り始めた「弾み車」

 出口のない暗闇の中でもがく国境の居留地。だが、変化しつつある住民の意識のはかすかな希望だ。

 セルズの道路沿いに立つ「Mondos」。タコスやブリトー、ネーションの伝統料理などを提供している食堂だ。あり合わせの材料で組み立てたような掘っ立て小屋だが、8年前の開店以来、地元の人々に愛されている。

 店主のアルマンド・ゴンザレスは生活に問題を抱える人々を支援するケースマネジャーとして、長年、ネーションの外で活動してきた。そんな彼が戻ってきた理由は地元に対する強い思いだ。フードビジネスを始めたのは、彼の母や祖母、曾祖母が料理人だった影響が大きい。

 「ネーションに戻って何かしたいとずっと思っていた。自分のルーツを考えると、フードビジネスというのもふさわしいと思えた」

 当初は地元に戻ることが第一で、ビジネスがうまく回るかどうか半信半疑だった。拾ってきたような材料で建物を作ったのも過大な投資をしたくなかったからだ。だが、実際にビジネスを初めて見たところ、大繁盛というほどではないが、ビジネスは順調に推移している。

 「ここでも十分に成り立つ」

 そうアルマンドは語る。

 実際に店を開いたことで改めて気づいたこともある。それは、従業員を雇い、コミュニティの内部でお金を循環させる重要性だ。

 店が忙しくなるにつれて、アルマンドは部族の友人をヘルプで雇い始めた。手伝ってもらう時間は日に1~2時間程度のため稼ぎとしてはそれほど大きくないが、キャッシュを得た彼らはコミュニティの他の店で消費し始めた。最初は1~2人だったが、雇う人間が増えるとともに地元に落ちるカネも増えた。

 アルマンドに触発されて、自分も何かしようと思う住民も出始めている。

 セルズの町中は相変わらず閑散としているが、カフェやジャンピング・キャッスル(空気で膨らませた遊具)を用いた簡易遊園地などのスモールビジネスが現れつつある。まだ小さな循環で動きは遅い。アマゾン・ドット・コムが物流センターを作った方が経済効果は大きいのは間違いないが、コミュニティに資金を循環させる弾み車はゆっくりと回り始めた。

アルマンド・ゴンザレスが開いた食堂「Mondos」