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1回の密輸で1万ドル

 ネーションで蔓延している依存症はアルコールだけでなくドラッグもそうだ。2006年までは車止めの鉄柵がなかったため、ドラッグや不法移民を積んだクルマがネーションに流入した。

 税関・国境警備局(CBP)のデータを見ると、国境地帯(ツーソン付近)における不法入国者の逮捕件数は2000年の61万人を筆頭に、2000年代前半は軒並み毎年30万人を超えている。2017年が3万8000人だということを考えれば、当時の状況が分かるというものだ。

 こういったドラッグの多くはカリフォルニアやニューヨークなど他の地域の需要を満たすために持ち込まれたが、鬱屈とした気分を晴らすために手を出す住民は当然いる。結果的に、ネーション内にはドラッグ汚染も蔓延した。ノーマによれば、今もドラッグは普通に流通しているという。

 「アルコールだけでなくドラッグ依存症も多いと聞く」

 「最近はそこまでひどくないですが、今もたくさんの人がドラッグをやっているのを知っています」

 「みんなはどこで手に入れるの?」

 「頼むと家に持ってくる。お互いにみんな知っているから」

 「警察は?」

 「報告しても、警察内に仲間がいる連中もいて。(警察署のある)セルズからここまで遠いので、警察が来る前に逃げてしまう」

 ドラッグ汚染は大人だけでなく、子供にも広がっている。

 「大人だけでなく、僕と同じくらいの学生、あるいはもっと小さな子供がドラッグの依存症になっているのを見てきた」

 セルズのバボキバリ高校に通うダニエル・マルケスは言う。彼の両親は覚醒剤とアルコールの依存症だったため、ダニエルは2歳の時から祖父母の元で育てられた。

 定職のない住民はインディアンジュエリーの製作やタコスのケータリングなど様々な手段で日銭を稼いでいる。

 セルズで話を聞いた中年女性はインディアンジュエリーを作っている恋人の収入と、タコス屋台の手伝いで週300ドルを得ている。セルズにあるナザレン教会の牧師、リーランド・コンウェイは副業でピザ屋を始めた。

 彼の場合、ネーションでクリスチャンスクールを運営していたが、妻の死去に伴って学校を閉鎖、収入が半分になった。教会からの支給は何もなく収入は年金だけ。それで日銭を稼ぐために教会の横でピザ屋を始めたのだ。

 雇用と現金が不足しているため、ドラッグの運び屋になる住民も少なくない。

 「数キロのドラッグを運んで捕まった友人がいる。彼女にいくらになるのかと聞いたら1万ドルだと。それで運び屋になるのさ。1回や2回はうまくいくかもしれない。だが、いずれ捕まる」

 リーランドは言う。

牧師のリーランド・コンウェイは日銭を稼ぐためピザ屋を始めた