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暗闇に浮かび上がる希望

 教育の方も改善している。

 バボキバリ学区のエドナは前任のスーパーインテンデントの改革を引き継ぎ、ネーションの教育改善に取り組んでいる。その柱は教師の待遇改善だ。

 10年前、小学校の出席率は70%と低く、授業に参加しない子供たちも数多くいた。教師もその状況を放置しており、必要な水準の学習が全くといっていいほどできていなかった。教室は落書きだらけで、窓もところどころ割れていた。

 「教師は子供たちを気にかけておらず、子供たちも学校が自分たちのものだという意識がなかった」

 教育崩壊の原因を教師の質に見た前任者やエドナは教師募集の際の給与を段階的に引き上げた。トホノ・オーダムまでは最寄りのツーソンから1時間半ほどかかる。教師の拘束時間は行き帰りの通勤と学校での教育で12時間は優に超える。ただでさえ厳しい環境なのに、給与が低ければ優秀な人間は誰も来ないと考えたからだ。

 アリゾナ州の教師の平均給与は年3万4000ドルで、エドナが来た当初は平均を大きく下回っていた。だが、連邦政府の補助金を活用して、大学を卒業したばかりの教師の初任給を5万1600ドルまで引き上げた。初任給としてはアリゾナ州で最高だ。通勤に対処するため、Wi-Fi完備の通勤バスも走らせている。

 その効果は確実に出ている。

 10年前に70%だった小学校の出席率は92%に上昇した。高校卒業後、大学や職業訓練学校への進学を選択する生徒も卒業生の8割に達している。かつては都市の生活に適応できず多くの若者がネーションに戻ってきたが、都市の大学に進学した若者をケアするカウンセラーを雇ったことで、進学した若者の大半が学業を続けるようになった。

 「出席率が上がったのは、学校が楽しいと思うようになったから。子供たちは教師が自分たちのことを大切に考えてくれると感じ始めています」

 そうエドナは語る。

 子供の意識も変化している。

 バボキバリ高校に通う17歳のスージー・ガルシア。彼女は高校卒業後、ワシントンDCのカレッジで刑事司法を勉強するつもりだ。トホノ・オーダムで殺人担当の刑事になることが目標だ。行方不明になったインディアン女性は多くが未解決のまま。そうした事件を解決することで、コミュニティの発展に関わっていきたいという。

 「両親や祖父母の世代は過去の歴史のせいで学校に通うのをあきらめていました。私たちにはとても悲しい過去があり、ネイティブ・アメリカンは他の人種のような能力がないと感じたのではないかと思います。でも、今は違います。ほとんどの学生が高校を卒業して大学に行くという強い決意を持っています。中退せずに高校に通い、大学を卒業すれば、いい人生を送れるということを若い人たちに示したい」

 彼女と一緒にいた他の3人の高校生も全員が進学を希望していた。

 彼らが外の世界に押しつぶされず、外の世界で得たものをネーションに還元できるかは分からない。だが、国や社会が一夜にして変化することはない。砂漠の民がかつての輝きを取り戻すのは、子供たちが学び、コミュニティに戻り、その子供たちが進歩と伝統を調和させた新しいカルチャーを築くことができた時ではないか。時間はかかるが、それ以外に希望はない。

注:記事中、アメリカ先住民の総称として「インディアン」という言葉を使っています。基本的に先住民は自分たちのことを「ネイティブ・アメリカン」とは言わないというのがその理由です。「ネイティブ・アメリカン」という呼び名自体が民族浄化に加担しているという見方があるためです。