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 メキシコに原材料を送り、組み立てて米国に送り返す。話を聞けば簡単なことに思えるが、それを支える仕組みは複雑だ。

 例えば、IMMEXを活用する米企業が中国からの輸入部品で製品を作り、ティフアナから米国に輸出するケースを考えてみる。たいていの場合、中国を出発した部品はロサンゼルスのロングビーチ港に着く。ただ、そのまま荷物を荷揚げすれば米国で関税を払うことになるので、荷物は開かずに外国貨物のまま、いわゆる「InBond(保税:一時輸入の状態)」でティフアナに送られる。

 一方、ティフアナの工場に入った部品は製品としてすべて輸出される必要があるため、米国とメキシコの税関に提出した書類と実際に輸出した製品が合っていることを確認するプロセスが発生する。それ以前に、ティフアナで生産した製品が関税の免除を受けられるかどうか、どういう輸入ルートが最適なのか、膨大な関税コードと格闘して調べる必要がある。

 「1カ月に扱っているアイテム数は膨大すぎて即答できない。企業が何かを輸出入する際は、税関に問い合わせながら一つひとつ判断していく」

 30年以上、TACNAの通関業務をサポートしているInternational Automated Brokers(IAB)のCEO、レイチェル・ゴディングは言う。

TACNAの通関業務をサポートしているIABのゴディング

ティフアナの闇と光

 勃興するシェルターと、「米国の工場」としてのティフアナの復権。それに伴って、エンジニアリングやマネジャーなど教育を受けた人々にとって割のいい仕事が増えつつある。それが中間層の増加を牽引している。とりわけ大卒の若者だ。

 大学で経営管理を学んだフランシスコ・シエンシアスはTACNAで規制対応を担当している。顧客の意向を聞き、それがメキシコやバハカリフォルニア州の規制と照らし合わせてどうなのか、間に立って調整していく仕事だ。高い環境規制や労働規制でメキシコの企業を近代化させることが重要だと考えている。

 「この会社の社会に関与する姿勢は素晴らしいと思う」

 顧客の1社、プラスチック製品の加工を手がけるCraftecで倉庫管理者を務めるルス・マリアは仕事の後、ティフアナのカレッジに通っている。英語がペラペラなのは高校時代に米国の高校に通っていたからだ。

 「私の世代はみんなカレッジに行くようになっています。大卒の資格がないといい仕事は得られません」

 そもそもボールドウィンの右腕のオシー・ディアスからしてティフアナの成長によってのし上がった人物だ。彼はメキシコのノガレスのマキラドーラで工場管理者を務めていた10年前にボールドウィンと出会い、TACNAにスカウトされた。今は高価なスーツや時計をつけてティフアナとサンディエゴを行き来する毎日だ。

 「ありがたいことに、給料はドルでもらっている」

 学歴がモノを言うのはどの社会も変わらないが、前回に見たティフアナの闇に生きるナチョやマリアの日常とは異なる世界だ。

ボールドウィンの右腕のオシー・ディアス