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いい客を送ってと神に祈るだけ

みんな違う父親?

マリア:はい。ひとりはレイプされてできた子供です。

そのまま産んだ?

マリア:もちろんです。

そういうことは何度もある?

マリア:たくさんありました。

殴られたり、カネを払わずに逃げられたり、そんなことばかり?

マリア:いい客を送ってくださいと神に祈るだけです。

客はどんな人々?

マリア:メキシコ人もいればアメリカ人もいます。コヨーテやドラッグディーラーも。

カルテルの人間は大勢知っている?

マリア:はい、たくさん。当時はみんな客でした。

米国に行こうとは思わなかった?

マリア:コヨーテに払うカネがなくて。米国に行った人たちは勇敢だと思う。私にとっては尊敬すべき人たち。

子供たちは何をしている?

マリア:ひとりは高校生で、次は来年、高校に入ります。一番下は中学生。

子供たちはあなたが何をしているか知っている?

マリア:知っています。

知ってる?

マリア:私の仕事を知って子供たちは泣きました。でも、最後は理解してくれた。HIVで同業の友人が死んだこともありますが、それであの仕事を辞めようと思ったんです。

この後の夢は?

マリア:健康でいて、子供や孫の成長を見たい。子供たちにもっといい教育を与えたい。同じような人生を歩んでほしくないから。

 米国は壁を築き、移民やドラッグの流入を阻止しようとしている。だが、実際に消費しているのは米国であり、原因の一端を作っているのも米国である。

 ニューヨークのレストランの厨房を覗けば、恐らくひとりやふたりは不法移民がいるだろう。オバマ政権以降、数は減っているが、建設現場や農場、トラックドライバーも不法移民が支えていた。メキシコでもドラッグ中毒は増加しているが、ドラッグの最大の消費国は米国で、ティフアナの歓楽街で逢瀬を楽しんでいるのも米国人である。

 「地獄の沙汰も金次第」と言ってしまえばそれまでだが、米国の経済力は相変わらず強く、世界の磁力の中心に位置している。メキシコは今も米国にチンガールされているが、それは他の国も変わらないのかもしれない。