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家族を養うために

 今はネイルサロンで働いている33歳のマリアは15歳から昨年足を洗うまで、17年間にわたってティフアナや近郊の町で客に体を売っていた。稼ぎは日によって異なるが、最盛期は日に15人ほど。週に3万ペソ(約17万円)を得ていた。リスクと隣り合わせの職業だが、一般的なメキシコ人と比べればかなりの収入だ。

路上の売春婦たち。ティフアナの一角は常にこんな状況

 彼女が売春を始めたのも生きるためだ。8人きょうだいの長女で母親も売春婦だった。家は貧しく、小学校しか出ていない彼女にできることは体を売る以外になかったのだ。他のきょうだいはみな高校を卒業したが、彼女が体を売って稼いだカネだということは知らない。

 「母が売春していたところは見ていませんが、夜中に出かけているのはよく見ました。本当に遅くまで。そのうち病気で死んでしまいました。他のきょうだいとは会っていません」

 彼女は15歳でティフアナに出てくるまでは、ホンダが拠点を置くグアナフアト州セラヤにいた。グアナフアトや隣のケレタロ、アグアスカリエンテスは欧米や日本の自動車メーカーが集積しており、自動車産業が生み出す雇用で大きく成長している。 

 もっとも、2000年にセラヤをあとにした彼女にとって、メキシコにおける自動車産業の勃興など関係ない話だ。逆に、NAFTA(北米自由貿易協定)の発効によって、彼女の苦しい生活はさらに厳しくなった。安価な米国産トウモロコシの輸入が増えたことで、マリアの祖父のような小規模な生産者が壊滅的な打撃を受けたからだ。その祖父も、彼女がティフアナに出る前に死んだ。

 多くの場合、客とのトラブルを避けるため売春婦はピンプ(ポン引き)と組む。事実、ティフアナのストリートを歩けば、誘ってくる女性の背後に必ずといっていいほど、いかつい男たちが目を光らせている。ピンプによる暴力やピンハネもエグいが、客とのトラブルは回避できる。だが、彼女はフリーで客を取った。

 彼女には今、3人の子供がいる。一人目は15歳の時、二人目は16歳の時、三人目は19歳の時の子供だという。父親はみんな違う。

お客の間にできた子供ということ?

マリア:(頷く)