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チンガールは続く

 大国にチンガールされ続けたメキシコの歴史。それはスペインだけにとどまらない。1821年にスペインからの独立を宣言したが、不安定な政情につけ込んだ米国がテキサスを併合、米墨戦争による割譲(1848年)やその後のガズデン購入(1853年に米国がアリゾナ南部やニューメキシコの一部を買い取った出来事)によってカリフォルニアからアリゾナ、コロラドなど当時のメキシコ領の半分を奪い取った。

 その後、メキシコは1876年から1911年まで、35年にわたって続いたポルフィリオ・ディアス大統領の独裁時代に経済的な繁栄を実現した。だが、積極的な外資導入によって鉄道や鉱山などの米国人所有が増加、工業化に伴う格差の拡大によって労働者など下層階級の生活は困窮を極めた。移民政策やNAFTA(北米自由貿易協定)の見直しなど、米国によるメキシコのチンガールはトランプ政権の今も続いている。

 経済的に見れば、メキシコの劣等感は晴れつつある。

 別の回で触れるが、ティフアナでは製品の全量輸出を前提に原材料や部品の輸入にかかる関税やVAT(付加価値税)を免除するIMMEXを活用した外資系企業が増加、雇用を生み出している。

 ケレタロやグアナフアトなどメキシコ中央高原では、安価で勤勉な労働力を求めて世界中の自動車メーカーが工場を建設した。グローバル企業による労働力の搾取と言えばそれまでだが、相対的に賃金が高い製造業の雇用創出は中間層を生み出す上で重要だ。

 事実、ティフアナやノガレスなどの国境都市では中間層向けの住宅建設が相次いでいる。NAFTAの再交渉で生まれたUSMCAがメキシコの自動車生産にどういう影響を与えるのかによるところも大きいが、中間層の増加という流れは今後も続くだろう。

トランプ政権の誕生で流れは変わったが、メキシコ中央高原では自動車メーカーの進出が相次いだ(写真:Bloomberg/Getty Images)
勃興し始めた若い中間層が住宅を購入している

 もっとも、全員がその機会に恵まれるわけはない。メキシコの所得格差(上位20%と下位20%の所得を比較した場合)は約10倍と、OECD加盟34カ国の中で最悪だ。通信自由化で財をなしたカルロス・スリムのような富豪がいる一方で、1億2000万人の人口の45%が貧困ラインを下回る。増え始めた中間層は希望だが、ナチョのような低学歴の若者は生きるために日々格闘している。

 ティフアナで出会ったマリアもそうだった。