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ある“コヨーテ"の半生

 「客は(太平洋岸の)ナヤリトやクリアカン、(中部の)イラプアトやグアナフアトなどメキシコのいろいろなところからやってくる。中高年もいれば子供まで様々だよ。米国にいる母親との再会を望む子供も多い。ドラッグは運ばない。運ぶのはあくまでも人間だけだ」

 密入国には逮捕や強制送還のリスクがつきまとう。1990年代や2000年代前半に比べて国境付近で逮捕される不法移民は大きく減っているが、それでも2017年には30万人が捕まった。コヨーテはドラッグカルテルなど犯罪組織と結びついている場合も多く、不法移民に対する暴行やレイプなども報じられている。

 「オレたちはそんなことはしない。そういうひどいことをやるのは米国側の連中だ」

 金融危機以降、メキシコ人の密入国は減少傾向にある。その代わりに増えているのは中南米からの密入国だ。貨物列車の屋根に乗ってメキシコに入り、その後はトラックやトレーラーの荷台などに隠れて米国国境を目指す。その中はすし詰め状態で、たまにトラックの中から死体が見つかったというニュースも流れる。米国を目指す7000人超の“キャラバン”がメキシコを北上しているように、ドラッグカルテル同士の抗争が激しいホンジュラスを筆頭に、祖国の暴力から逃れるために米国を目指す移民は少なくない。

 「実は、トランプが大統領になってから客は減っている。あと、みんなカネを払いたがらない」

米国国境を目指す中南米からの移民(写真:AP/アフロ)

 ナチョが渡し屋を始めたのは生きるため。彼の父親は警備員だったが、稼ぎは不十分で子供の頃はいつも腹を空かせていた。その後、家計を助けるために12際の時にコヨーテの手伝いを始め、そこでやり方を学んだ彼は独立して自分で客を取るようになった。18歳の彼には妻と2人の息子がいるが、家族に今の仕事は伝えていない。

 「建設関係の仕事をしていると言っている。一度、米国の国境警備隊に捕まった時はドラッグをやって捕まったと嘘をつく羽目になった。地元の友達は学校に行って、いいキャリアを築いている。自分を見ると情けない気持ちになる」

 聞けば、彼の最終学歴は小学校1年だという。

 彼自身が語ったように、過去に一度、国境警備隊に捕まったことがある。だが、コヨーテだということが分かってしまうと密入国幇助の罪に問われるため、その時は他の客と一緒に不法移民のふりをしてやり過ごした。そのまま3日後に、強制送還でティフアナに戻った。

 「コヨーテがメキシコの警察にバレれば刑務所行きだ。だが、オレたちは生きるために戦っている。トランプが壁を作ろうが関係ない。どうせ飛び越えるから。誰も止めることなんてできないよ」

 コヨーテの仕事はハイリスクだが、それに見合った稼ぎではないようだ。単純計算で月に10人を密入国させれば3万ペソを稼げるが、ドラッグカルテルにみかじめ料を払わなければ仕事ができないため、手取りで言えば大した金額にはならない。それでも、学歴が皆無に等しいナチョにとってはこの仕事以外に生きる術がない。