米税関国境警備局(CBP)によれば、2017年に米国に流入した人間は、典型的な一日として見ると、陸路、海路、空路の合計で108万人に上る。そのうち徒歩や自動車で国境を越える人はおよそ70万人で、65億ドル(約7150億円)相当の製品が米国に輸入される。世界最大のGDP(国内総生産)と消費力を誇る米国。世界中の人やモノを引きつけているという一端が見て取れる。

 そんな巨大な“ブラックホール”に国境を接しているメキシコ・ティフアナにも様々なモノが集まる。国境沿いの工場で生産された工業製品、そういった工場に雇用の口を求める労働者、メキシコを経由して米国に流れるドラッグ、自国の貧困や暴力から逃れる中南米の不法移民、集まる男を相手にする娼婦たち--。

 前回紹介した退役軍人の支援施設、通称「バンカー」のヘクターと別れた後、取材班はティフアナ市内でひとりの男と会うことになっていた。

 エドアルド。彼もまた強制送還された元退役軍人である。刑務所を描いた映画の中にはタバコやマリファナなど必要なものを何でも調達してくる不思議な囚人が登場する。ティフアナに鼻が利くエドアルドも、人種としてはそれに近い。

 彼には「コヨーテ」を紹介してほしいと頼んでいた。コヨーテとは、密入国を目論む不法移民を米国に送る国境の“渡し屋”のこと。不法移民がどのように国境を越えるのか。客の数は増えているのか、減っているのか。そんな話を聞きたいと思ってエドアルドに頼んだのだ。

 そして、待ち合わせのホテル。てっきりガタイのいいチンピラが現れるのかと思っていたが、エドアルドと一緒に来たのはあどけなさの残る若い男だった。

 地元のサッカークラブ、クラブ・ティフアナをこよなく愛するナチョは12歳の時から今の仕事をしている。1回の渡しで請求する金額は3000ペソ(約1万7000円)。真夜中にクルマで国境まで連れて行き、フェンスを乗り越えたり、フェンスの下に掘っておいた穴をくぐったり、クルマでゲートをそのまま通過したり、様々な手段を駆使して密入国させる。自分も一緒に国境を越える場合の請求金額は7000ペソ(約4万円)だ。

18歳のナチョは12歳の時に密入国の手伝いを始めた

 米国サイドにパートナーがおり、越境した後はその人物が不法移民を回収する。無事クルマに乗せたという電話が入れば彼の仕事は終わりだ。仮に失敗すれば、強制送還で戻ってきた後に再チャレンジする。月によって異なるが、10人以上を密入国させることもある。