そして、ティフアナに腰を据えたヘクターは同じ境遇にある仲間を探し始める。彼らが米国に戻るには過去の犯罪履歴を取り消す必要がある。そんなことが可能なのかと思うが、あり得るのは政治家による恩赦だ。そのためには同じ境遇にある退役軍人を集め、自分たちの存在を米国に知らしめなければならない。
その過程でホアキンやアレハンドロに出会った。ひとり、そしてまたひとりと退役軍人を探し出した。もちろん、2010年からすぐに今の形になったわけではない。初めは自分の生活を立ち上げ、次にティフアナで路頭に迷った退役軍人に寝泊まりする場所を提供するところから始めた。
「初めは自分のアパートに連れてきた。その後、徐々に支援の幅を広げていった」
バンカーに来る人間はホームレス状態だったり、PTSDを抱えていたり、薬物中毒だったり、様々な状況にある。彼らを支援する上で大切なのは一時的な住まいを提供することだ。住むところが安定しなければ、仕事探しなど次のステップに進むことができない。
米中西部カンザスシティでホームレスの退役軍人に住居を提供するプロジェクトを進めているVeterans Community Project。彼らは軍隊生活で用いられるのと同様の簡易型の小屋を建設、ホームレスの退役軍人に提供している。あくまでも一時的な仮の住まいという位置づけだが家賃は無料だ。現在は13の家に13世帯が住んでいる。最終的に50戸の住宅を作るという。
こういったプロジェクトを始めたのも、ホームレス状態から抜け出す第一歩が住居だからだ。
「私も試しに住んでいるが、必要なモノは全部揃っていて快適だよ。ここは自立して暮らす方法をホームレスの退役軍人に教えるために作った。それほど大きな家である必要はない」
この組織の創業者でチーフ・リーガル・オフィサーを務めるブライアン・メイヤーは指摘する。ヘクターも同様にティフアナで見つけた退役軍人を自分のアパートに住まわせ、その間に住居を探す手伝いをした。
軍隊式の方が問題が減る
住居と並びヘクターが重視したのはルール作りだった。起きる時間やシャワーの時間など軍隊式に細かく決めていったのだ。第1回に登場したArizona Border Reconのティム・フォーリ―が語ったように、退役軍人は軍隊の規律に慣れている。軍隊では日々のタスクは上長から指示されるが、除隊して社会に放り出されると、何をしていいのか分からなくなってしまう。
「すべてを軍隊式に作っていった。その方が問題が減るんだよ」
そして、2013年にバンカーを設立、寝る場所を提供するだけでなく、電話やパソコンを貸与したり、家探しを手伝ったり、米国での年金や社会保障を受け取れるように手続きを教えたり、米国サイドの弁護士を紹介したり、何でも屋のリソースセンターとして活動の幅を広げていった。
「これまでに住居の面倒を見たのは30人ほど。全体では100人くらいここに来たかな。われわれのところには400人のデータベースがある。そのほとんどはメキシコ人だが、ドミニカ人やジャマイカ人、フィリピン人などもいる。強制送還された退役軍人の数は数千はいると思うが、詳細は分からない」
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