沖縄に本拠を置く海兵隊の師団、第3海兵師団に所属していたアレハンドロ・ゴメス・コルテス。彼は退役後の1996年、ドラッグの所持と販売で逮捕され、国外退去処分を受けた。販売した量はわずか20ドル分だが、違法行為に違いない。刑務所の薬物依存症治療プログラムに送られた後、メキシコに強制送還された。
「20ドル分、コカインを売っただけだ。ほんのちょっとだよ。しかも、書類上は執行猶予なのに、人生丸々、国外追放? 厳しすぎる。オレは(コロンビアの麻薬王)パブロ・エスコバルじゃないのに……」
アレハンドロが米軍に入隊したのは18歳の時のこと。だが、1年ほどでクビになった。理由は度重なる遅刻だ。彼の言葉を信じれば、アレハンドロには結婚を約束した女性がいたが、知人の結婚式に参加した帰りに殺された。自暴自棄になったアレハンドロは毎日のように酒を飲み、翌日の訓練に遅刻するようになった。そして除隊。不名誉除隊というやつである。
「当時は自分自身をコントロールできなかった。彼女の葬式さえ手伝うことができなかった。なんてざまだ」
その後、ドラッグの所持と販売で逮捕されるまで何をしていたのかは語ろうとしない。だが、背中や足にある銃やナイフの傷を見るに、ストリートをタフに生き延びてきたのだろう。
強制送還によって彼もすべてを失った。強制送還された後、初めのうちは妻も子供を連れてメキシコに来てくれた。だが、段々と疎遠になり、そして離婚した。26歳の長女は最近、子供を産んだという。いつの間にか祖父になっていた。
「妻は疲れたんだよ。私の稼ぎがなくなったことで生活費はぜんぶ彼女が負担した。しかも、私のケアまで。それは負担が大きすぎる。かつては彼女に怒りをぶつけたこともあったが、今は理解している。4人の子供を育ててくれたことに感謝している」

彼らが軍に行く理由
戦時と平時で異なるが、米軍に加わる外国人は毎年5000人ほどいる。入隊と除隊を繰り返すため人数は変化するが、2012年の時点で2万4000人のグリーンカード保持者が米軍で働いていた。1999年から2010年の間にはおよそ8万人が在籍したという。予備役を除いた米軍の人員は約130万人に達するため、比率で言えばごくわずかだが、毎年5000人という数字は無視できる数ではない。
外国人が米軍を目指す理由は時代によって様々だ。深い皺に人生がにじむアンドリュー・デ・レオンはフルタイムの仕事を得るために軍隊に入った。
「米軍に入ったのは多くの機会が得られるからさ。貧乏なイタリア人やドイツ人は移民として米国に来てみんなリッチになった。彼らがどうやってリッチになったのかは分からないよ。でも、みんなリッチになった。米軍にはいろいろな機会がある。それをつかんで人生を前に進めたいと思ったんだよ」
アンドリューが得た仕事は陸軍付きのコック。戦地には行かなかったが、それでも米ソ冷戦の最前線だった西ドイツに赴任するなど2年間を軍隊で過ごした。除隊後はトラックドライバーや庭師、レストランのコックなど職を転々としている。彼の言う機会をつかめたのかどうかはアンドリュー自身がどう考えるかによる。だが、3人の子供と7人の孫に恵まれ、リッチではないかもしれないが、平凡な家庭を築くことができたという面ではそう悪くなかったのではないか。
そんなアンドリューが強制送還された理由はヘロインの所持だ。10カ月、刑務所に収監された後、ティフアナに追放された。
「ポケットに2グラム。それで刑務所と強制送還だ。もちろん、家族も自宅も向こう側。こっちに持ってくるわけには行かないだろう? 家族はみんな自分がまいた種だと言ったが、まさにその通りだ」

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