強者どもの懺悔
メキシコのグアダラハラで生まれ育ったルイス・フエンテスが米国に移住したのは12歳の時のこと。米国に働きに出ていた母親が米国人と再婚したことで永住権を取得、姉とルイス、祖母を呼び寄せたのだ。そのままグリーンカードを取得したルイスは米国人として中学、高校を過ごし、卒業後の1998年に米軍に入隊した。所属は陸軍の第82空挺師団。航空機からパラシュートで飛び降りる恐れ知らずの部隊である。その後、特殊部隊に配属された。
「空挺部隊にいた時は楽しかった。世界中を飛び回ることができたから」
だが、その6年後に彼の人生は暗転する。友人とクラブで酒を飲んでいる時に他のグループと口論になり、暴力事件を起こしたのだ。詳細については口をつぐむが、12年と4カ月、刑務所に収監されたことを考えれば、それなりの重罪だったのだろう。当時、彼には2人の子供と結婚を約束していた女性がいたが、12年という年月はあまりに長い。結局、フィアンセは子供を連れて別の男と新たな人生を歩み始めた。
ルイス自身、市民権を得る手続きを進めていたが、それもご破算になった。
ジョージ・W・ブッシュ政権は2001年9月の同時多発テロの後、市民権取得費用の免除を含め、米軍に所属する外国人が市民権を取得しやすくなるように制度を変更した。国のために戦っている外国人にチャンスを与えることが目的の一つだったが、市民権取得に伴うセキュリティ・クリアランスを満たすことで、イラクやアフガンに派兵した際に機密情報にアクセスできるようになるという実務的なメリットもあった。
ルイスもこのプロセスに申し込んでいたが、酒場のケンカですべてが水泡に帰した。若気の至りと言えばそれまでだが、その代償はあまりに大きかったと言わざるを得ない。
強制送還されて1年。10年近くメキシコで暮らすヘクターやホアキンはティフアナの生活に適応しているが、「住めば都」は言うは易し。来たばかりのルイスは現実をいまだに受け入れられない。

「この町は好きじゃない。汚いし、物乞いも多い。売春やドラッグもあるし」
「友人はできた?」
「一人でいることが多い。朝7時から午後5時までコールセンターで働き、その後はジムに行く。子犬を一匹飼っているよ。いろいろな事情があって、ここでいい友人を見つけるのは難しい」
「誰がカルテルとつながっているか分からないから?」
「……」
「強制送還という処分については?」
「自分がやったことは100%後悔している。でも刑務所で罪は償った。6年間、軍隊に尽くした。強制送還まではされなくてもよかったのではないかという思いは今もある。今はただチャンスがほしい。人生をやり直すチャンスが」
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