「あなたの父は?」

 「私の父は1970年代に不法移民として米国に渡った。メキシコの農夫だったが、よりよい生活を求めて18歳の時に米国に来た。そして、米国生まれの母と結婚して私が生まれた」

 「父は英語が話せないし読み書きもできない。スペイン語も読めない。読み書きができないんだよ。だが、彼は働いて、働いて、働いたために今はミリオネアになった。私はPTSDを患って市民生活に戻ってきたが、あきらめないということを父が教えてくれた」

 「私の仕事は警察であれ、軍人であれ、法律であれ、自分で自分を助けられない人々を助けることだ。その時々の役割で人々の役に立っていることを望む」

 「改めて、ヘクターたちをどう思う?」

 「誰もが天使ではない。中には犯罪を犯す人間もいる。だが、彼らが問題児であるならば、それはわれわれの問題でもある。彼らは米軍のために働いた米国人だ。だから、ほかの国に強制送還すべきではない。問題を抱えた人間をどこかに送っておしまいというのはほめられたやり方とは思えない」

恩赦で市民権を獲得

 ヘクターの活動については批判もある。所詮は犯罪者であり、外国人が法を犯せば強制送還は当たり前という批判だ。だが、ダニエルの言うように、彼らは国に命を捧げ、国に奉仕した人間であり、犯した罪は償っている。強制送還という処分は重すぎるという声も理解できる。不法移民を巡る議論も同様だが、米国を二分するイシューはどちらの立場も理解できるだけに白黒つけるのが難しい。

 それでも、彼らを巡る状況は少しずつだが改善している。ヘクターは今年4月、カリフォルニア州知事の恩赦によって犯罪歴が消滅、米国の市民権を得た。彼曰く、極めてレアなケースだが、6年間の軍歴によって恩赦が認められたのだという。一人ひとりの退役軍人に向き合い、海外に追放された退役軍人というどこからも光が当たらない存在を世の中に知らしめた成果である。長い戦いに勝利したのだ。

 恩赦の可否はここの軍歴や犯罪歴によって異なるが、ヘクターが切り開いた前例は仲間に希望を与えている。

 「短期の目標は米国で自動車免許を取ることだ。長期的なゴールはメキシコだけでなく、多くの国にバンカーを作ることだ。既にドミニカにはひとつ作った。ジャマイカにも作りたい。多くの人を家に送り帰したい」

 そこまで言うと、ヘクターはスーツケースに荷物を詰め込み始めた。久しぶりに米国に戻り、家族に会うのだという。米国とメキシコを分かつフェンスは1メートルほど。だが、在留資格のない外国人にとってその1メートルは果てしなく遠い。ヘクターはもうフェンスの前で引き返すことはない。そして、機会を求める外国人が今日も国境に向かう。