太平洋岸のサンディエゴからメキシコ湾岸のブラウンズビルまで、米国とメキシコを分かつ3000キロ長の国境線。その国境が米国の政治や経済、社会の最重要課題に浮上したのは、あの男がホワイトハウスを奪取してからと言っていい。第45代アメリカ合衆国大統領、ドナルド・トランプである。

 不法移民の締め出しやビザ発給の厳格化によって米国で働くハードルは確実に上がった。関税の導入や自由貿易に対する嫌悪感は、米国への輸出を前提にした国境沿いの企業を不安に陥れている。壁の建設こそ実現していないが、人とモノの流れを妨げる障壁は既に構築されつつある。米国と世界を揺るがしているイシューの震源地は紛れもなく国境だ。

 米国の国境では何が起きているのか。それを取材すべく、取材班は国境沿いのコミュニティを訪ね歩いた。国境に生きる人々の悲喜劇と、国境を舞台に繰り広げられる人間模様--。

 1回目はアリゾナ州アリヴァカを拠点に活動する自警団を取り上げる。アメリカはエクストリームな国だが、ここに登場する男もまた、常軌を逸している。

(ニューヨーク支局 篠原匡、長野光)

 「こっから先は揺れるぞ。しっかりつかまっていろよ」

 迷彩帽とカーキのTシャツを着た男は、そう言うとジープのアクセルを踏み込んだ。首の後ろに彫られたタトゥーは“DILLIGAF(Does It Look Like I Give A Fuck:知るか、ボケ!)”。59歳にはとても見えないほど深く刻み込まれた顔の皺、それはアリゾナの強い日差しと乾いた大地に肌をさらし続けたからだろう。長年、体一つで身を立ててきた男の顔である。それも彼にとっては勲章だ。

 男の名前はティム・フォーリー。アリゾナ州ノガレス郊外のアリヴァカに拠点を置く自警団、“Arizona Border Recon”のリーダーである。

自警団のリーダー、ティム・フォーリー

 乾いた泥がこびりついたフロントガラス、その向こうには米国とメキシコを隔てる国境の山々が見える。道らしき道はない。あるのは、年老いたような赤茶けた大地とむき出しの岩、ところどころに茂る灌木ぐらいのものだ。そして、お構いなしにジープは国境に向けて突き進む。

 「きれいだろ。オレはこの風景が大好きなんだ」

活動内容はドラッグカルテルの監視である