米国の有権者は変化を選択した

 それでも勝利したのはなぜか。ひと言で言えば、変化への渇望である。

 ロナルド・レーガン元大統領のスピーチライターを務めたペギー・ヌーナン氏は以前、米ウォールストリート・ジャーナルの定期コラムで、今年の大統領選を「絶望」と「不安」の戦いとたとえた。

 民主党のクリントン候補は政治経験が豊富で政策的な知見も高いが、政治経済を牛耳る主流派の代弁者で体制の劇的な変化は望めない。他方、共和党のトランプ候補は既存政治とは無縁のアウトサイダーだが、大統領になった後どのような世界を作るのかはふたを開けてみないと分からない。能力は申し分ないが現状維持の候補と、破壊力は満点だが予測不能な候補の二者択一。それを「絶望」と「不安」という言葉で表したのだ。そして、米国の有権者は最終的に変化を選択した。

 サイレントマジョリティとして無視されてきた地方の白人の反乱と言い換えることもできる。

 オバマ政権の8年間で経済は着実に回復しているが、所得の伸びは遅々としており、中間値を見れば金融危機前の水準を下回る。グローバル化と貿易の拡大で国は豊かになったのかもしれないが、慣れ親しんだ仕事がなくなり、英語を話さない隣人が増えた。オバマ大統領の8年間で同性婚の容認などリベラルな政策が導入され、「多様性」を重視すべしとの掛け声の下でマイノリティばかりが優遇される。彼らの視点から見れば、オバマ大統領の8年で米国は確実に悪化した。将来に対する不安が高まっているにもかかわらず、ワシントンのエリートは党利党略ばかりで物事が何も決まらない――。

 その怒りは共和党の主流派にも向いている。

 ライアン下院議長をはじめとする主流派は自由貿易や移民の受け入れを支持してきたが、地方に暮らす白人の多くはそれらを望んでいない。主流派が目指すソーシャルセキュリティの削減や富裕層減税も、ブッシュが始めたイラク戦争や積極的な拡張外交も、恐らく彼らの多くは望んでいない。トランプ氏が共和党の分裂を招いたとしばしば指摘されるが、既に共和党は、エスタブリッシュメントや富裕層と、それ以下に分裂していた。トランプ氏はそこに現れ、人々の不満に火をつけただけだ。

 「これは白人の反撃だ。国を変えようという白人の反撃であり、黒人大統領に対する反撃である」。CNNでコメンテーターを努めるバン・ジョーンズ氏はこう述べた。トランプ氏が人格的に大統領に向かないと60%の人々が考えていた。その中でトランプ氏が大統領になり、上下院を制したという事実。それはオバマ政権とリベラルに虐げられてきた白人のせい一杯の復讐なのだろう。