4年に一度の一大イベント、米大統領選は残り3週間を切った。民主党のヒラリー・クリントン候補と共和党のドナルド・トランプ候補の戦いは9月後半まで接戦が続いていたが、討論会の直接対決以降、過去のセクハラ発言テープの流出などトランプ氏が自滅している印象が強い。だが、米国民のクリントン嫌いも根深いものがある。まだ予断は許さない。

 この連載では、中西部のラストベルトの町と住民をひもときつつ、トランプ氏が可視化した「トランピズム」の断片を見ていく。4回目はペンシルベニア州アリクィッパ&ブラドックへ。

(本文敬称略)

 バージニア州に住む写真家、ピート・マロビッチは昨年以降、かつて繁栄を極めた"鉄鋼の町"の風景をフィルムに収めている。

 彼の両親はペンシルベニア州ピッツバーグ近郊のアリクィッパという町の出身。マロビッチ自身そこで生まれ育ったわけではないが、子供の時に毎年のように祖父母を訪ねており、第2のふるさとのような場所だ。そのアリクィッパが1980年代以降、急速に廃れていく姿も目の当たりにしてきた。

「華麗な転換」は本当か

 そして数年前、鉄鋼業の衰退に伴って住民が激減していたピッツバーグが再生、ヘルスケアや教育、IT(情報技術)など産業構造を華麗に転換させているという記事を目にした。だが、アリクィッパの惨状を知っているだけに、マロビッチには今ひとつしっくりこない。そこで、モノンガヒラ川やオハイオ川の周辺の古びた町に足を運ぶことにした。

 現場に行き、改めて分かったのは、そういった川沿いの町がいまだに衰退から抜け出せていないという事実だった。かつてピッツバーグを全米有数の大都市に押し上げた小さな市町村は忘れ去られようとしている――。そう痛感したマロビッチは鉄鋼の町の今を撮ることに決めた。

アリクィッパのバーで住民と語るバーテンダー(写真:Peto Marovich)

 例えば、彼のルーツとも言えるアリクィッパの現状を見てみよう。ここは第2回で述べたモネッセンと同様、地元の鉄鋼会社とともに発展した企業城下町だが、鉄鋼業の衰退で受けた打撃はモネッセンの比ではない。