ミュージカル映画『オズの魔法使い』で、主人公ドロシーと共にエメラルドシティへ旅をする3人、かかし、ブリキの木こり、ライオンの中で、特に印象的なのはライオンです。というのも、このライオンは「臆病」だからです。一般に百獣の王と称される、勇気の象徴のようなライオンが、ここでは臆病な動物として登場するのです。そしてこのライオンはドロシーたちとの旅を通して「勇気」を得るのです。

 それでは、臆病というのはどういうことでしょうか。辞書などによれば、「ちょっとしたことを怖がり、後込みすること」です。その一方で反対語とされる勇気は、「怖がらず立ち向かうこと」ということです。ライオンは、何を怖がっているのでしょうか。

だれにでも勇気はある

 『オズの魔法使い』でライオンは登場すると、ドロシーたちを脅して犬のトトを追いかけますが、ドロシーに鼻を叩かれると、急に弱気になり臆病さを露呈します。ライオンは何でも怖がります。夜も怖くて眠れず、「羊を数えるにも羊が怖い」とまで告白します。そして勇気を求めて旅をするのです。

 ところがドロシーが西の魔女に捕らわれると、最初は物怖じするものの、頑張ってなんとか助けます。そしてオズの魔法使いを演じていた男アルタにこう言われるのです。

 「危険から逃げるのは臆病ではない。勇気と知恵を混同している」

 アルタは、ライオンがドロシーを助けた勇気をたたえて、勲章を与えます。ここでライオンは教えられるのです。英雄でなくても、だれにでも勇気はあるということを。そして、必要なときに行動することが勇気だと知り、自分には勇気があると、自信を持つのです。

 それまで映画の中で、ライオンは臆病についての歌を口ずさんでいました。さらには、自分が森の王になることに憧れ、このように歌います。「オズの魔法使いによって勇気をもらえれば、自分は森の王になれる。みんなを支配できる――」。

 ライオンは勇気をもらって森の王様になるのでしょうか。そうではありません。オズの魔法使いアルタの命によって、オズの国をかかしが統治するのを、ブリキの木こりとともに補佐するのです。ここでライオンが得たものは、本来自分が持つ能力を知り、そしてそれを生かすための自信なのです。

臆病と勇気

 ライオンと同じように、私たちも勇気ということについて勘違いしていることがあります。映画やドラマで、闘いの勇者が持つものが勇気であり、それは特別な力だと思っています。ライオンも当初、そういう特別な力を得ることで、森の王様になれると考えていたのです。でも実際はそうではありません。仕事においても、勇気がないからできないとはじめから諦めている人、逆に高みに上ったり、人を支配したりするために必要なのが勇気だと勘違いしている人を見かけることがあるでしょう。