ミュージカル映画『オズの魔法使い』に仕事と生き方を学ぶ連載の第2回です。
主人公の少女ドロシーは、虹の向こうに「どこにもない場所」を求めるうち、現実を離れて小人の国マンチキンに来ました。そこでドロシーは、元の世界に戻るために、オズの魔法使いがいるエメラルドシティを目指して歩き出します。その途中で、わらのかかし、ブリキの木こりに出会い、一緒にエメラルドシティを目指すことになります。
ところが、途中で西の魔女が現れてこう言うのです。
「ドロシーのお供をする気かい? やめときな。さもないとわら人形はマットレス、ブリキは蜂の巣箱にするよ」
このように、西の魔女はエメラルドシティに行く彼らの意欲をくじこうと邪魔をします。
現実世界にこのシーンを置き換えてみましょう。私たちは何かを始めようとすると、困難に出会うことがたびたびあります。会社では、新しい企画を立てて進めようとすると、それに反対する人たちが妨害することがあります。私生活の中では、近隣住民との関係が悪くなって、嫌がらせを受けることがあります。また、仲のよかった友人との関係が壊れてしまい、敵対するようになることがあります。
邪魔をする理由
『オズの魔法使い』において、西の魔女が邪魔をするのには理由があります。
1つの理由は、ドロシーが家ごとマンチキンに吹き飛ばされてきたときに、その家が西の魔女の姉である東の魔女を押しつぶしたことです。東の魔女は、小人たちを支配していたので、ドロシーは彼らからは歓迎されました。しかし西の魔女にとっては、ドロシーは姉を殺した憎い仇になったのです。
もう1つの理由として挙げられるのが、東の魔女のルビーの靴を善良な北の魔女がドロシーに与えたことです。西の魔女はそれを取り返すことを狙っているのです。
会社生活や私生活の中で自分に反対したり邪魔をしたりする人には、ほとんどの場合、理由があります。しかし、ドロシーのように、知らないうちに相手を傷つけて、恨まれていることもあります。
私たちは、相手がなぜ自分に反対したり嫌ったりするのか、わからない場合が多くあります。対応できないと、相手が敵意をさらに募らせることにもつながります。理由を考えることで、自分を客観的に見て問題解決につなげることが可能になるので、理由を追究することは重要なのです。
邪魔をする内的要因
ドロシーが前に進むことを邪魔するのは、決して外的要因ばかりではありません。内的な要因もあります。
ドロシー自身が、悩みのない「どこにもない場所」を望んでマンチキンに来たように、私たち自身も現実を受け入れられずに、どこかに逃避したいことがあるでしょう。特に自分が失敗をしてしまったとき、私たちは言い訳を考えがちです。
前回のコラムで述べましたが、ドロシーは悪いことが起きると、他人のせいだと考えがちでした。私たちの中には、すぐに言い訳を考えて他人のせいにするという、アカウンタビリティ(主体性)の欠如という一面を持っています。これから続く旅の中で、もしドロシーが今までと同じようにアカウンタビリティのない状態に身を置くのならば、ドロシーは自ら行動することもないので自分の望む物を得ることは難しいでしょう。しかし、もしドロシーがアカウンタビリティを持ち、自分の力で物事を変えられると思ったら、現実逃避をした過去の自分の行動を変え、現実から逃げるのではなく立ち向かう行動ができるので、自分の望む結果が得られる確率が上がります。
自分がどのような状態にいるのか、目に見える形で示したのが下の図です。アカウンタリビティを判断するために、「ライン」という境界を設定しました。この図のように、ラインの下側の状態に陥るのはよくあることです。私たちはこの下に落ちていく重力に打ち勝ち、上の状態に自らの力で上る必要があるのです。まずは自分自身がラインの上の状態なのか下の状態なのか、意識してみてはどうでしょうか。
障害が意欲を高める
西の魔女は、ドロシーたちを妨害しようと、燃えやすいわらのかかしに、火の玉を投げつけます。そこを、火に強いブリキの木こりが消し止めます。この攻撃によって、当初、かかしも木こりも意欲を失います。
私たちも、こうした妨害や障害があると自信を喪失し、企画や計画をあきらめることがあります。例えば、受験に失敗して大学をあきらめる人がいます。何か新たなチャレンジがうまくいかないと、このままの生活でいいと思い、怠惰な生活に流されることもあるでしょう。これは、日常生活でも仕事でも、たびたび起こることではないでしょうか。
しかし、やがてかかしと木こりは、この妨害にかえって意気を高めて、ドロシーと一緒にエメラルドシティを目指そうと、再び誓い合います。現実にも、障害や抵抗があるからこそ、意欲がわいたり、戦う気持ちになることがあります。ある程度の障害、超えうる壁は、むしろチャレンジ精神を高めます。怠惰な生活を送っていても、何かに挑戦し始め、小さな壁ができて、それを越えられると自信につながります。
さらなる壁を乗り越える
ドロシーの一行にはさらにライオンが加わりました。わらのかかしは脳、ブリキのきこりは心、ライオンは本来あるはずの勇気を求めて、エメラルドシティを目指します。ドロシーはもちろん、故郷カンザスに帰るために。すると、西の魔女はけしの花に毒を盛り、彼らを永遠の眠りにつかせようと邪魔をします。
このように、障害や邪魔は1回に限りません。せっかく1つの壁を克服しても、もう1つ壁があることもあります。悪いことが立て続けに起こることもよくあります。それに負けないためには、どうしたらいいのでしょうか。
西の魔女のけしの花の毒によって、まず犬のトトが、次にドロシーが、そしてライオンが眠ってしまいます。かかしと木こりは動物ではないので眠りませんが、2人だけでは彼らを起こせません。このとき、善良な北の魔女がそこに雪を降らせます。そのおかげでドロシーたちは目覚めました。
つまり、時には他者の力を借りて、壁を克服することも必要なのです。始めからあきらめたり、逃避したりするのではなく、挑戦して失敗したときには、他人に相談したり、力を借りたりすることも必要です。そして挑戦するからこそ、アカウンタビリティを持っているからこそ助ける人が現れるのです。
自分の中の魔女との戦い
これまで、かかし、木こり、ライオンは、言い訳をして自分の弱点を克服しようとはしませんでした。そのため、ドロシーのエメラルドシティ行きについても、成り行きを見守り、お互いに「自分の仕事ではない」と無視することもできました。また、けしの花は麻薬の象徴ですが、眠り込んでしまえば、エメラルドシティにたどり着けなくても、けしの花のせいにすることもできます。
ドロシーたちのように、私たちはだれしも、前述の図のライン下へ落とされる重力と戦っています。西の魔女もこの重力の1つなのです。自分の心の中を見回せば、西の魔女のような者がいて、それに対して葛藤を抱いているのではないでしょうか。このことを自覚して、ラインより上にいようとすることが、問題克服への第一歩です。
そして、図の言葉を借りるならば、「現実を見つめ」ることで本来自分が持っている勇気を取り戻し、仲間を思い励ましながら心から「当事者意識を持ち」、知恵を振り絞って問題に対して「解決策を見出し」、前進して「行動に移す」ことを通して、自分自身の目標達成へと向かうことができます。
補い合うことの重要性
上述したように多くの障害や壁を克服するには、一人の力では困難なことがあります。そういうときには、年長者や信じられる人の力を借りることも大切です。また、ドロシーたちのように、仲間がいて、それを信じること、そしてお互いに欠点を補い合うことも大切です。
心や頭がない、命のないわらのかかしやブリキの木こりだからこそ、人や動物が眠り込んでいても、助けようとすることができました。また、ブリキだからこそわらの火を消し止めることができました。
「暗やみを抜けたら光に向かって進もう!」と、ドロシーたちは、心の底から希望を持って、エメラルドシティのお城を目指します。
このあとの展開でも、さらに私たちの仕事や生活の中で、学ぶべきこと、人間関係と心理や、どうふるまうべきか、などを考えさせるエピソードが続きます。ぜひお楽しみに。
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