4人に与えた言葉
ミュージカル映画『オズの魔法使い』を通して仕事をするうえで参考になる考え方などをお伝えするこのコラム。今回は、オズの魔法使いを演じていたアルタが、ドロシーやライオン、わらのかかし、ブリキの木こりに与えてくれた言葉が、どういうものなのか。それぞれについて考えてみましょう。
勇気を求めるライオンは、オズの魔法使いを演じていたアルタにこう言われます。
「危険から逃げるのは臆病ではない。勇気と知恵を混同している」、「だれにでも勇気はある。必要なときに行動することが勇気である」
脳味噌をほしがるわらのかかしはこう言われます。
「脳味噌はだれにでもある。大学生の脳味噌は君と変わらない」
そして、心を望むブリキの木こりはこう言われます。
「君はすばらしい心を持っている。欠けているものは人からの感謝の印だ」、「どれだけ愛するかじゃなくて、どれだけ人から愛されるかが大事なのだ」
一方でドロシーは、アルタからこのような直接的な声はかけられませんでした。ところが、違った形で教えられます。
魔法使いを演じていたアルタは、故郷のカンザスにおいては、ドロシーが家出をしたときに出会う、占い師のマーヴェル教授なのです。マーヴェル教授は家出をしたドロシーを占い、そして「エムおばさんが悲しんでいる。あ、胸を押さえて倒れた」とエムおばさんの様子を伝えます。それを聞いたドロシーは、急いでエムおばさんの元へ帰ります。そして帰ったときに、大竜巻が発生して、オズの国に連れてこられるのです。
オズの魔法使いのアルタがライオン、かかし、木こりに語ったことは、「探し求めていたものをあなたはすでに持っている」、あるいは、「能力や大事なものは、すぐそばにある」ということです。そして、アルタでもあるマーヴェル教授も、実はすでに、ドロシーにとってはエムおばさんの家が一番大事であること、大事なものはすぐ身近にあることを教えてくれていたのです。
試練を与えること
それでは、「探し求めているものはすでに持っている」ということをすぐに教えれば、それでいいのでしょうか。
「死ななきゃ脱げないルビーの靴の教え」の回で説明したように、北の魔女がドロシーにはかせたルビーの靴は、実は故郷カンザスへ帰れる魔法の靴でした。でも、北の魔女はそれを教えずに、オズの魔法使いに会いに行くようにドロシーに伝えます。それによって、ドロシーは、かかし、木こり、ライオンという仲間を得て、西の魔女を退治することができたのです。つまり、この試練・経験を経て、自分の持っていた能力や価値に気づくことにこそ、意味があるのです。
私たちは、初めから能力があると思っていると、それをうまく使いこなせないことが、よくあります。例えば、絵がうまい、計算が早い、頭がきれる、あるいは美人やハンサムであるとか。子どものころからそういわれていても、必ずしも成功するとは限りません。そういう人は失敗したときに、周囲からも自分でも、「本当はできるはず」などと甘やかされて、その力を生かせない場合が多いのかもしれません。そうすると、いつの間にか「二十歳すぎればただの人」になってしまうのです。
むしろ、自分に能力がないと思って、努力したり、訓練したり、学んだりして能力を開花させる人の方が成功します。「ウサギとカメ」の寓話のように、追い抜いてしまうのです。こういった例は、自分の周囲を見回すと、見つかるのではないでしょうか。
自分を知ることの意味
子どものころから才能があると思われている人も、実は早くから音楽教育を受けていたり、計算の訓練をしていたり、英語を学ぶ機会があったりなど、体験が人よりある場合がほとんどなのです。親が音楽家やスポーツ選手で秀でた才能を持っていると、DNAとか遺伝とかいわれがちですが、実はそのことに触れる機会が多く、体験・経験や訓練によって培われていることが多いのです。
つまり、体験や経験が能力を生み出しているのです。ところがそれに気づかずに、ほめられるまま、生得の能力だと勘違いすると、自己過信に陥り、失敗することがあります。それを防ぐには、自分をよく見ること、そして、自分の能力を客観視することが大切でしょう。
ドロシーも、西の魔女を倒すという試練と経験を経て、身近にあった能力に気がつくのです。そしてさらに、カンザスに帰ってくると、かかし、木こり、ライオンがエムおばさんの農場の農夫たちであり、自分を助けてくれる存在、大事な存在が身近にあることにも気づくのです。それも実は、アルタでもあったマーヴェル教授がカンザスで教えてくれたことといえるでしょう。その意味でも、マーヴェル教授は占い師、予言者かもしれません。
このように、自分の能力を過信するのではなく、試練や経験を経て、その能力に気づき、生かすということが大切なのです。周囲の人、身近な人たちのことを考えてみましょう。時には自分を助けてくれたり、自分の長所、欠点などに気づかせてくれたりする人がいるのではないでしょうか。
それを、おせっかいと思ったりすることがありがちです。でも、自分のとらえ方次第で、多くのことに気づかせてくれる可能性があるのです。自己過信ではなく、客観的に能力に気づき、生かすことができれば、私たちもドロシーのように、正しい道を進めるはずです。オズの魔法使いであるアルタ、そして占い師のマーヴェル教授は、それに気づかせてくれたのです。
さて、今回は、オズの魔法使いが与えてくれた考え方について学びました。次回は、「自分の望みをつかんだドロシー」です。
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