ミュージカル映画『オズの魔法使い』を通して仕事をするうえで参考になる考え方などをお伝えするこのコラム。今回は、映画の中でもキーアイテムである、ルビーの靴にスポットをあてます。
主人公の少女ドロシーは、カンザスの農場に襲来した大竜巻によって、家ごと飛ばされてしまいます。飛ばされた先は、小人の国マンチキン。落ちた際、その家で悪い魔女である東の魔女を押しつぶします。
悪い魔女をやっつけたため、マンチキンの人々から大歓迎されるドロシーたち。その一方で妹である西の魔女は姉を殺されたと恨みます。西の魔女は東の魔女の履いていたルビーの靴を取ろうとするのですが、北の魔女の魔法によってその靴はドロシーが履きます。この靴には魔力があるため、これ以降、西の魔女はドロシーの靴を狙い続けます。
西の魔女が空飛ぶ猿にドロシーとトトを捕まえさせたときに、ドロシーに「靴を脱げ」といいます。しかし、靴はドロシーが死なないと脱げないのです。そのため、靴を傷つけないようにドロシーを殺すにはどうするか、と考えるうちに、トトが逃げ出して仲間を連れてきて、ドロシーは逃げることができました。
その後、西の魔女の城の中で、一行は追いつめられてしまいます。そこで、西の魔女がわらのかかしに火を放つのですが、それを消そうとした水によって魔女は溶けてしまいます。西の魔女はルビーの靴にこだわるあまり、自滅してしまうのです。
実は、原作においてはルビーの靴は銀の靴でした。ドロシーは、この銀の靴の片方を西の魔女によって脱がされてしまい、それに怒ってバケツの水をかけると、魔女は溶けてしまいます。原作においては、魔女退治に密接につながっているように、靴の存在は非常に重要なのです。
靴の魔力
それでは、ルビーの靴の魔力とはどのようなものでしょうか。ドロシーは、西の魔女を退治した証として、彼女が持っていたホウキをオズの魔法使いを演じていたアルタに渡し、アルタと一緒に気球でカンザスに帰ろうとします。しかし、猫を追いかけたトトのためドロシーが気球に乗り遅れて嘆いていると、北の魔女が現れて、「ルビーの靴のかかとを打ち合わせれば戻れる」と教えます。その通りにすると、ドロシーは元の家のベッドにいるのです。
つまり、マンチキンに来てから、北の魔女に履かされたルビーの靴は、簡単にカンザスに戻る手段だったのです。帰り方はまさに足元にありました。
私たちの社会にもそういうことがあるでしょう。解答が近くにあるのに気づかずに、遠回りするのです。見つけるためには、自分の回りをよく見て発見することです。「灯台下暗し」ともいいますね。
そして、ルビーの靴のように、だれしも自分の気づいていない能力を持っています。気づいていない能力とは潜在能力もそうですし、特徴、個性、長所も含まれるでしょう。往々にして自分では気づかないものですが、親や師、友人、仕事仲間などが気づかせてくれることがあります。あるいは能力テスト、研修やカウンセリング、コーチングなどによってそれがわかることもあります。それらを通して自分を客観的に見ることができます。能力に気づいたら、自分を信じて進むことが大切です。
試練を与える
でも、ルビーの靴の魔力でカンザスに帰れるなら、北の魔女はどうしてドロシーにエメラルドシティに行けといったのでしょうか。初めからルビーの靴の魔力を教えればよかったとも思えます。
北の魔女は敢えてドロシーに試練を与えたのだ、と考えられます。エメラルドシティを目指したからこそドロシーはわらのかかし、ブリキの木こり、ライオンという仲間と出会い、協力して西の魔女を倒せたのです。カンザスに戻るという目的のために、悪と戦ったのです。そして、3人の仲間を得ました。3人は、カンザスに帰ってくると、それぞれがドロシーのよく知っている農夫でした。きっと、これまで以上に彼らとの絆は深まったことでしょう。試練を与えられると、人間は強くなります。そして、人との絆も深まります。北の魔女が試練を与えたのは、それを示すためのものだと考えられます。
私たちも仕事、人生、勉強、趣味などで、困難や試練に直面することがあります。それをどうやって克服するのか。それは、私たち自身にかかっています。真剣に自分を見つめて進めば、周囲の人が能力に気づかせてくれたり、協力してくれたりします。
つまり、ドロシーに与えられた試練は、私たちが前に進むためのお手本と考えてもいいでしょう。輝くルビーの靴はそれを象徴する鍵なのです。
そして、ルビーの靴の魔力を理解したうえで、どうやって使うのかが重要です。北の魔女が最初にルビーの靴の魔力を教えていたら、本当の意味でルビーの靴の魔力には驚くことなく、もしかするとドロシーはかかとを打ち合わせることすら行わなかったかもしれません。私たちは簡単なことを受け入れようとせず、難しいことほどさもそれが正しいことだと考えがちだからです。その力を苦労して発見する過程を経てから、ここぞというときに力を活用することが、一番効果的なのです。まさに「伝家の宝刀」ですね。ルビーの靴には、もっといろんな魔力があるかもしれません。それをさらに発見するのも、私たちそれぞれに任されているといえるでしょう。
靴の意味
靴は、人間の足の象徴でもあります。そして、人間の移動を示しています。そのためルビーの靴は、ドロシーがマンチキンからエメラルドシティまで歩く旅を支え、その意義を示していると考えられます。つまり、ルビーの靴はドロシーの試練の旅を象徴する存在でもあるのです。だからこそ、この靴のかかとを打ち合わせることで、カンザスに帰ることができたのです。
原作では銀の靴だったのがルビーの靴に変わったのは、おそらくエメラルドシティの「エメラルド」と同様に、輝きのある宝石にしたかったことと、またミュージカルの舞台や映画にふさわしい視覚的な輝きのためでしょう。解決策を得るために目指したエメラルドシティより、価値があるのは自分自身にあるルビーであることを伝えたかったのではと推測できます。
原作者のライマン・フランク・ボームは若いころ、新聞や雑誌を発行して失敗したり、劇団を主宰してミュージカルを上演したりしていました。でもきっと、自分の童話がミュージカルになって、世界中、東洋の国の幼稚園や小学校でまで上演されるとは、夢にも思っていなかったでしょう。ボームもそんないろんな困難を乗り越えて、この『オズの魔法使い』を書くに至ったのです。
さて、『オズの魔法使い』のルビーの靴の役割と意味、いかがでしたか。次回は、オズの魔法使いが私たちに投げかけてくれた考え方に焦点を当てます。
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